春の訪れ18
「ヴェェアアアアア‼‼」
「おおっ! やるじゃねぇか! この速度で切り替えられるから生き残ってこれたんだろうな!」
大熊の硬直は一瞬だった。
割り込んだ敵を認識した瞬間、食い千切ろうと噛み付いた。
それでも。ヤンキエルは涼しい顔で鼻先を抑え、大熊に霞を食わせる。
大熊は今度こそ驚かない。
急に目の前に現れるような存在だ。
咄嗟の、勢いが死んだような攻撃が止められたぐらい!
そう考えていた。
とはいえ、掴まれたままでは動きにくく。
弾かれるように距離を取る。
巨体は動くのが遅い・・・そんなイメージがあるかもしれないが、それは幻想だ。
大人が大股で歩いた時と子供が大股で歩いた時、どちらが大きく動けるか。
この条件では子供が必ず大人に負けるとは言い難いかもしれないが、極端な例を除けば、大きい身体を持つ方が大きく動けるだろう。
そして、同じ動きをするのだから、かかる時間に大きな差はないと考えるのが普通だ。
では、これが巨人と小人ではどうだろうか?
相対的な話だ。
巨人が如何にゆっくりと動こうとも、小人からすればその1歩に追いつくには何倍もの、何十倍もの動きを必要とする以上、大きい=遅いは成り立たない。
それが成り立つのはフィクションの中か、安全基準がある場合だけだ。
身を縮こませるように屈めた大熊は。
次の瞬間には宙を滑るように突進していた。
相撲で言うぶちかましのような動き。
しかし、掌で打つわけじゃない。
爪で貫く。必殺の技だ。
ヤンキエルはツインテエルの前に立っている。
避ければその後ろで動けずにいるツインテエルが貫かれてしまう。
だから避けられない。
大熊はそこまで理解して選択した攻撃。
けれども。
「質量を使った攻撃を選んだのはいい! けど、直線的すぎるな。それにだ。アタシが魔法を使うとか、考えなかったのか?」
ヤンキエルは冷静に、思考を分析しつつ諭すように言葉を投げかける。
同時に爪先だけを避けつつ腕、そして肩に当たるよう蹴りをお見舞いする。
回転しながら、滑らかな反撃。
およそ威力などなさそうな、脱力を感じる動きなのに。
熊の突進は大きく外れる。
軌道をズラされたことを理解するや否や、大熊は地面を掴むように着地。
身体を回転させ後隙を減らし、もう一度。
今度は思いっきり踏み込んでの横なぎを使う。
これはついさっき、男を吹き飛ばした実績のある一撃だ。
「ほお~‼ 爪じゃなくて掌か! 子熊の爪が折れてたのをちゃんと見てたわけだ‼ けど残念。それじゃ威力が足りねぇな。もっと体格を活かせよ」
ただしヤンキエルは、これをやはり片手で止めていた。




