春の訪れ16
「転生者だからって言われたって分からないんだよ‼ 何も‼ 昨日の今日で何もかもがわかるなら、神様なんかお呼びじゃないだろ⁉」
「恵まれてるって言ってんの‼‼ 努力しなくても、下界との繋がりだけで比べ物にならない存在力を持ってる癖に‼ そんなことも知らないで偉そうにしちゃって‼‼」
燃え上がった炎が中々治まらないように、諍いは一度始まると長く引きずってしまいがちだ。
それはどんな場所、文化、世界であっても変わらないのかもしれない。
しかし、当然があるならば。
「グルゥオオオオオオオオオオオオオオオオ‼‼‼」
隠れるべきものが騒げば見つかってしまうのもまた、当然であるだろう。
両者は揃って、しまった! という表情こそするが、逸人は対応のために。ツインテエルは追及のために視線を動かす。
そうすると大熊は自然とツインテエルを狙う。
目が合った獲物と、まだこちらを見てない獲物。
狩りやすいのは圧倒的に後者だと知っているから。
上から―――・・・そう、上からだ。
振り下ろされたのは左腕。
しかし逸人には、ビルがすごい勢いで倒れてきたように感じられた。それほどに熊の身体も腕も大き過ぎた。
なのに、その時間は僅か1秒にも満たない速さで迫る。
最速の攻撃と言われるビンタを振り下ろす状況は、まさに蚊でも潰すかのよう。
逸人が反応できたのは、紛れもなく天界という世界の理のおかげだろう。
濃縮された時間の中で、ツインテエルを庇うために前へ。
続いて飛び出し過ぎないように踏み止まると同時に姿勢を低く、腕をクロスさせつつ頭の上に。
これらをツインテエルが立つ地面より高い足場たる木の根の上で行う。
本当に、目にも留まらぬ一瞬の出来事だ。
バガギャッ‼‼ という音は木の根が耐えられなかった音。
釣られるようにツインテエルが音を目で追う。
睨んだはずの逸人を目で捉えたのはこの時だ。
意外にも逸人は原形を崩すことはなかった。
意味があるのか不安だったクロスアームブロックも、お世辞程度には役に立ったのかもしれない。
ただ衝撃が伝わった先の足場は無事では済まず、それこそ脚の形にへこみ、逸人の3割ほどが木の根と同化している。
なんであんな所に・・・? 怪訝に思うのも束の間。
ブオンッッ‼‼ と一陣の風。
髪が乱れるという女性らしい感想がチラリと脳裏を過るが、網膜には別の映像が灼けつく。
絶望だ。
絶望的な差が目の前にあった。
埋まっていたはずの逸人の身体は、強烈な横なぎによって消えていた。
けれど大熊は探さなかった。
その必要がないからだ。
「グォガァアアアアアアアアアアァァァァァ‼‼‼」
だって仇は目の前に居るのだから。




