春の訪れ15
「なんだったのよ・・・、アレは・・・」
「たぶん熊だったと思うけど・・・」
「そんなことはわかってるわよ! 私が言ってるのは大きさのこと‼」
決まってるでしょ‼ とでも言いたげにツインテエルは強く返す。
言われた側である逸人も。別に本気で取り合っているわけじゃない。
平静を取り戻すための軽口だ。
追手は撒いた。
背後から迫る大きな影は、倒した熊の3倍はあっただろうか。
人の身長が股下に収まると言えば、その大きさも想像できよう。
戦うなどナンセンスだ。
「あーもう、最悪‼ なんでこう、うまく行かないのかしら⁉」
「ヤンキエルとメダウナだっけ? はぐれちゃったけど、大丈夫かな?」
「知らないわよっ‼ でも、片方は七位の天使様なんだから大丈夫でしょ! メダウナだって・・・・・・・・・まあ、大丈夫よ」
「間が気になるんだけど?」
「面倒臭がって逃げなかった可能性が否定できないだけよ。だけど、あの影は追いかけてきてたんだから、その場合でもきっと大丈夫でしょ」
「それは大丈夫に入るの?」
「存在力がちょっと減るだけよ」
ゲームで言う死に戻りの感覚で言ってるなと逸人には感じられた。
ペナルティが経験値じゃなく、残機に近いことを思えばやっぱり死なないに越したことはないはずなのだが―――・・・。
「っていうか、気安く話しかけないで! 私は別にあんたのことなんか好きじゃないんだからね‼」
ツインテエルはそういうと、自らの身体を抱くように腕を組み、フンッと鼻を鳴らしながら顔を背けて髪を靡かせる。
顔を赤らめながら制服でも着ていれば、スチルでもあったかもしれない。
そんな感想が湧くぐらいに、なるほどと感心した。
(ツインテールの概念って、そういう・・・・・・)
髪型を司る天使と思うと全くイメージがわかなかったのに、キャラ付けとして考えるとあまりにも腑に落ちるのは最早、思い込みや刷り込みのレベルになるが、曰く天使とはそういう存在らしいのだから仕方がない。
「どうしよう? このまま帰ってもいいのかな?」
「はあ⁉ アンタ手ぶらで帰るつもり⁉」
「ヤンキエルが居れば証言はしてくれるだろうし、下手に動き回るとさっきの巨大生物に見つかると思うけど・・・?」
「だからって何も持たずに戻れるわけないでしょ⁉ 馬鹿なの⁉ そんな恥を晒すくらいなら死んだ方がマシよ‼‼」
「そんなに狩猟の成果って重要? というか、そのプライドは死ねば守れるものなの?」
「当たり前でしょ⁉ なにも出来ずに逃げ帰って来ただけの存在と、決死の覚悟で戦った存在が同じ評価なはずないじゃない‼ そんなことも分からないわけ⁉」
「でも帰っても証言は貰えるよね?」
「証拠がないでしょ‼ いい⁉ 物事ってのはね、最初が一番重要なのよ‼ 印象ってのはそう簡単に覆らないの‼ それは信仰にだって言えるでしょ‼ 舐められたら終わりなのよ‼ そんなことになるくらいならいっそ、アンタを証言者にして、あのおっきな熊と戦って死んだ方がまだ格好がつくわ‼ アンタがいい感じに怪我でもてくれれば証拠だって――ッ‼‼」
なぜか流れで戦う位置付けを押し付けれらる逸人だが、冗談じゃない。
「死んだ方がマシっていうには理由が弱すぎる! 存在力だって無限じゃないんでしょ⁉」
「十分すぎる理由よ‼ 存在力が減るって言っても、微々たる量よ‼ そのために目指すところを選んぶんでしょ⁉ これだから転生者はッ‼‼」
どうやら、価値観の溝は思ったよりも深いらしい。




