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春の訪れ14

 そもそもこれが狩りであるという実感が抜け落ちていた逸人はポカンとしてしまう。

 状況に流される内、気付けばここに居て、いきなり笛が鳴ったかと思うと獣に襲われた逸人からすれば無理もない話ではあるが・・・。


「さっきも言ったが、コイツを全員で等分にするってんなら、アタシからは何も言わねぇさ。間違ってもねぇからな。今のところは1番の大物だ」

「それよ! 今のところってのが問題なの! アンタはどうするわけ⁉」


 ヤンキエルとツインテエルで勝手に話を進められて、それで詰め寄られても困ってしまうというもの。

 ルールもなにも、わかってはいないのだから。


「それを教えてやる筋合いがねぇのはわかってるよな?」

「ッ‼ それは・・・・・・でも‼」

「なんでそんなことにこだわるんだ? これはあくまで自分の実力の証明だ。この熊のあり様を見れば、どんな魔法で倒されたかもわかるし、誰がやったかもわかるだろ。イツヒトがこの後、別の大物を倒したとしても、こうなることはねぇだろうしな」


 確かになんでだろう? と逸人も追従(ついじゅう)するが、会話には乗り遅れたままだ。

 会話の主動を(にぎ)らなくていいのは楽だが、どこかで割り込まなければまた、別の大物とやらを狩らなければいけなくなってしまうという思考には、(いま)辿(たど)り着けてはいない。


「そんなの―――‼ どうだって・・・」

「彼女、優等生だから。自認? 矜持(きょうじ)? そういうのが消せなくて」


 最初の勢いからは考えられないほどの急停止を見せるツインテエルと裏腹(うらはら)に、メダウナが短めに答える。


「それだけが理由にしちゃ頑なじゃねぇか?」

「担任が親族」

「そいうやさっきママって――・・・親にいいとこ見せてぇってわけか」

「ママに子供なんていません‼‼」


 すかさず入る訂正(ていせい)に熱を感じる。


「ママエル先生は彼女の憧れ。近い親族の中で唯一の大天使」

「あー・・・なるほど、聞いたことあるわ。あの先生、あんな感じで学生時代は初年度から優秀で、最短で大天使になったとか」

「うっ! ・・・だって、私の家系は平凡な―――だからっ‼」

「あ~いい、いい。たぶんアタシとも(おんな)じ家系だ。アタシの方は外れもいいとこだけどな」


 なんでこの会話だけでそんなことまで分かるんだろう? と疑問に思った逸人も思い出しす。


(名前は生まれにも由来(ゆらい)するんだっけ・・・)


 大きくは目指すべきもの、ヤンキエルなら喧嘩でヤンキーから来てるはず。

 ツインテエルはそのままツインテール。この場合、髪型以上の何があるのかは分からないけど、ママエルと合わせて共通点を上げるなら――。


 エルの部分が該当するとわかる。

 ここが生まれに由来するんだろう。


「それでイツヒトはどうしたい? この熊はまだ子熊だけど、新入生の成果としては十分だ。それは3等分しても変わらねぇ。その上で狩りを続けるか、それを教えてやるかも自由でいい。アタシはどっちでもお前に付いて行く」


 ここで答える=今後の予定を教えることになるのでは? と思わなくもないが、あえて別れてから違う行動をしてもいいってことを言外に示しているのか。

 いや、ヤンキエルがそこまでの意図を込めているかどうかは・・・。

 なんて長考(ちょうこう)するよりも。


「子熊・・・?」


 聞き捨てならない言葉が口から反芻(はんすう)するように()れ出る。


「ん? おう! この森を見りゃわかるだろ? ここいらの神獣はこの自然に負けねぇぐらいデカくなるんだ‼ だからこそ、やりがいがあるっつーか、そうだな・・・おすすめは蛇だな! この熊の、成獣の方だけどよ。そのライバルなんだけど、デカいし硬いし素早いしで、戦うと超楽しいんだぜ‼」


 力説する傍ら―――いいや、これは背後だ。

 にもかかわらず、あまりに大きすぎる輪郭(りんかく)がのそりと。

 それは立ち上がった熊・・・ではなく。


 ズダン‼‼ と叩き付けられたのは腕だった。

 さっきの輪郭は持ち上げられた腕の先。

 では、その本来は?


「逃げるわよ‼‼」


 ツインテエルの叫びで、蜘蛛(くも)の子を散らすかのように走り出した。

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