春の訪れ13
逸人からすれば、
(水っ⁉⁉ 熱っ――冷たっ⁉⁉⁉)
という感想なわけだが、凍り付けば呼吸も出来ないわけで。
突っ込みの過程で砕けるレベルの氷で良かったなと、しみじみ思いながら。
(でもこのまま熊の腕にくっ付いてると次が来て、また巻き込まれるかも)
そう判断し、
「っ~~‼‼」
4Mはあろうかという高さから落下する。
股の間がヒュンとする感覚を覚えながらも、今度の着地は問題なく。
地面までの落下時間に改めて熊の図体の大きさを思い知らされた。
振り上げられた腕は、立ち上がった身長に腕の分が加算されているのだから無理もない。
そんな思いから、逸人は恐る恐る振り返る。
自分が氷を砕いたせいで、また熊が動き回るんじゃないか? という疑問が生じたから。
しかし、熊は腕を動かすのが精一杯の様子で。それも次第に動きは鈍くなり、最後には動かなくなった。
「なによ、大丈夫そうじゃない」
ホッと胸を撫で下ろすような、どこか申し訳ないような感情が浮かぶ中、近寄って言葉を発したのはツインテエル。
「大丈夫なのは氷が砕けたからだろ⁉ なんで助けに入ったのに巻き込まれなきゃいけないんだ‼‼」
「別に頼んでないでしょ‼ それに、助けたって言うんだったら私達の方も同じじゃない‼‼ あの熊を倒したのは私達の魔法なんだから‼‼」
「それこそ頼んでないよ‼ この熊はただ、逃げた先に君らが居たから!」
「違うわよ‼ この熊は私達を襲いに来たの‼ そんなことも分からないの⁉」
押し問答になりつつも、メダウナは参加することなく、面倒臭そうに熊を見つめていた。
「イツヒトは嘘なんかついてねぇよ」
代わりに割って入ったのは姿を隠していたヤンキエル。
「ア――なたは、確かママのお手伝いで来た・・・」
「七位のヤンキエルだ」
「私はツインテエルです。そっちはメダウナ」
「挨拶、どうも」
「おう、挨拶は大事だな!」
「そんなことより、ソイツが嘘をついてないってどういうことよ‼」
「どうもこうも、言った通りだ。アタシはイツヒトとずっと一緒にいたからな。この熊はイツヒトに襲い掛かって、力量の差を感じ取って逃げたのさ」
「はぁ⁉ そんなわけないでしょ⁉ だってなんにも感じないわよ⁉」
「それぐらい差があるってことだ。お前の魔法も新入生にしちゃ大したもんだけどな。転生者には敵わねぇよ」
「転生者ってだけでそんな―――」
「見て、爪」
「なによ! 急に」
「折れてる」
憤るツインテエルの髪の束、その片割れを掴んで引っ張り、メダウナが指さしたのは振り上げられなかった方の腕だ。
「これがその折れた先だ」
ヤンキエルがポイっと投げたのは間違いなく3本ともが熊の爪で。
凍ったままの腕部を解凍して折れた部分と合わせれば、同じ形であることもわかるだろう代物。
「ヤンキエルさんが折ったんじゃないんですか? それを――」
「おいおい。アタシは今、監督官だぜ? そんなくだらねぇ真似なんざするかよ。それともなにか? そんな卑怯な方法を取る奴が七位を手にしてるってのか? そりゃぁ学園を、もっと言やぁ神様を馬鹿にしてるようなもんだぞ? それでもいいんだな?」
「失言でした」
「わかりゃいいんだ!」
一瞬だけ、ヤンキエルの纏う空気が剣呑としたが・・・直ぐに晴れる。
「ま、つってもだ。この熊に止めを刺したのはお前らだ。イツヒトに助けられたからって、そこまでは取り上げねぇよ。それでも、あくまで”3名”での手柄ってことになるが・・・異論は?」
「・・・・・・ないです」
「私も、了承」
メダウナは素直に受け入れるが、ツインテエルは渋々といった感じで。
「ただ―――」
続けて、
「アンタがこの後、どうするかにもよるわ」
ツインテエルは逸人を指して言った。
「この後?」
「まだ狩りを続けるのかってことよ‼」




