春の訪れ6
「おーっし! この辺りでいいだろ‼」
ヤンキエルが逸人の腰に手を回し、押し運んでしばらく。
想像よりも森の主張が激しい場所に立っていた。
「またしてもどこ⁉」
逸人がそのことに気付いたのは、さっきの声が聞こえた瞬間だった。
首を振って視界を回し、現状把握に努めるが・・・森! という感想しか出てこない。
それでも違和感はあった。
”想像よりも”の部分だ。
森を想像して、それよりも主張が激しいとはどういうことか?
答えはシンプル。
木々が太くてデカいのだ。
「どうだ? すげぇだろ?」
「そう言われると凄いけどさ・・・」
なぜか嬉しそうに笑うヤンキエルは、恐らくこの木々の生命力あふれた姿を自慢しているのだろうと読み取れはした。
日本でも有名な屋久杉か、それ以上のサイズ。
下界ではちょっとお目に掛れないだろうソレは、圧倒するほどの存在感を放っている。
「じゃ! 気合い入れていこうぜ‼」
「なにがッ⁉⁉」
「なにって――おいおい、確かにお前なら簡単に仕留められるかもしれねぇけどよ。野生の動物・・・それも神域の森に生息してる奴らだぜ? 油断してっと足くらい救われちまうからな?」
「野生の・・・動物を、狩るの?」
「なんだ? そんなことしなくても、どうせ転生者だから楽に成績ぐらいゲットできるだろって思ってるのか?」
断じて、そんなことなど思ってはいない顔だが、生憎と伝わらない。
「せめて武器とか・・・!」
「なに⁉ 持ってこなかったのか⁉」
「えっと・・・邪魔になるかなって! ほら、ずっと手に持っとくとさ!」
「あーそっか! 魔法もまだ使えねぇのか! そりゃ話を聞く間もずっと手に持ってたら気になるよな‼」
あっはっは! と笑うヤンキエルを見て、少し安心できた逸人。
感情は伝わらなくとも、話は通じるかもしれない!
そんな浅はかな思考を嘲笑うが如く。
「まーでも、ここで武器を渡しちまうと過剰に手を貸したことになっちまうから、素手で行くしかねぇな! 大丈夫だイツヒト! お前ならできる‼」
力の籠った応援だけが送られる。
そうじゃない! と突っ込みたい気持ちと、そっかぁ・・・という乾いた諦めの感情が綯い交ぜになって、口を塞ぐ布となる。
がっくりと項垂れる逸人の動きが、ヤンキエルには頷いて見えた。
それが合図だった。
ピーーーーッ‼‼
モスキート音のような掠れた超高音が耳にさんざめく。
うるさいという程には聞こえないのだが、嫌な予感は膨らむ一方。
そして、悪しき想像はよくよく当たるものだ。
「ギュアッ‼ ギュアァァッ‼」
壁のような木の裏から、塀のような木の根の裏から、家のような岩の上から、なんと柱のような枝の上からも。
音に釣られたのだろう。
潰れた高音の鳴き声で威嚇してきた。




