春の訪れ5
呆然と、あるいは漠然と。
逸人はママエルが抱えた鳥を見ていた。
怪鳥とでも言うべき異形の姿。
天界ではこれがスタンダードなんだろうか?
左右に眼が3つずつ、翼は二対で、開いて正面から見るとXになる。
大きさは人の胴体ぐらいか、首が長く感じるが・・・鳥なら短い方だろう。
それら特徴を見事に避け、脳天を穿った矢が――しかし、痛々しくはない。
可哀想だとか、罪悪感のようなものが湧き上がることはなかった。
見た目のせいかと疑ったが、どちらかと言えば悪魔のせいである。
化物じみた見た目だからと簡単に見捨てられるような性格をした人間ではない・・・と主張するには悪魔を見捨てるような真似もしたが、悪魔なので仕方がないのだ。
気付いてなくとも、悪魔とはそういう性質も持ち合わせている。
「おい、どうした? 無視は・・・って、そうか。こっちの動物は珍しいか。下界のとは結構違うもんな?」
「ああ、うん。まあそうだね。あの鳥は、こっちではよく居るの?」
「あー・・・なんだっけな。下界で言うあの鳥、黒くてカァカァ鳴く、」
「カラス?」
「そうそう、そんな名前だったはず!」
その割には色も大きさも、かなり外れているように見える。
「どこが似てる?」
「似てるってか、近いんだよ。鳴き声とか、動きとか、後―――」
ヤンキエルが答える直前、バサバサバサ‼‼ と森が羽ばたく。
もちろん森そのものが飛ぶわけじゃない。
深い緑色の塊が剥がれ落ちるように、羽音を掻きたて木々から分離する。
「凶暴さとか」
よく見なくとも、それが同じ鳥だということがわかる。
そしてそれらが空の一角を覆うほどの群れであることも。
カラスは賢く、襲われたことを理解できる。
それが故に逆襲も行う。
生存本能でもあるが、情に篤いためでもあるという。
番であれば生涯を添い遂げる相手なのだとか。
「さあ1年坊! 自信がねぇなら今がチャンスだぞ⁉ 獲物から向かって来てくれる機会なんてそうはねぇからな‼」
「事前に配布した弓は持っていますね? 自信のある方はもう森へ入って貰っても大丈夫ですよ! 暗くなる前には集合してくださいね~!」
教師であるママエルに慌てる様子がないことから、お手本というのはコレ混みのことだったことがわかる。
「よし! 許可も下りたし、アタシらは森へ行こうぜ!」
「え⁉ アレは大丈夫なの⁉」
「ここは天界だぜ? 気にしなくても死にやしねぇよ! あの鳥達だって、時間がたてば元通りになる」
「それは同一個体じゃなくない⁉」
「いや? 存在力を完全に消費しきらねぇ限りは、存在そのものが消えることはねぇよ。そのせいか、天界では死ぬことなんて想像もしねぇ。天使なら1日もあれば復活できるからな」
(存在力って信仰心とかだったよね? つまり信じられている限り不滅? それって本当に神様みたい・・・っていうか、そういう世界なのか)
お前は優しいな! なんてヤンキエルが言っているのをどこか遠くに聞きながら、新しい常識に打ちひしがれる逸人は。
いつの間にやらその背中を押されていることにも、そのまま森の奥へと進んでいることにも、まだ気付いてはいなかった。




