春の訪れ4
少し遡って話をすると―――・・・。
「というわけで、皆さんには親睦を深めるためのレクリエーションに、参加してもらおうと思います!」
講義室において、ママエルはこのような話をしていたのだ。
皆も春先のオリエンテーションなどが記憶に在ったりしないだろうか? さして仲良くもない、なんなら名前以外なにも知らないような状況での班決めなど、あのいかんともしがたい雰囲気を思い出したくない者もいるかもしれないが、説明としてはアレが近い。
「内容は神域の森での狩猟になります! 標的はなんでも構いませんよ! もしなにも捕れなくても、それ自体が問題になったりはしません! ですが、取り組みの姿勢は大事ですから、そこは評価になります。忘れないように」
といった注意事項に触れつつ、
「最後に! 今の時代、狩猟や戦闘の技能なんて本当に必要なのかと、思うかもしれません。けれど基本というものは、いつの時代でも重宝されます。天使の基本は人間らしくあり、人間の行く末を導く存在です。紛争絶えない下界について学ぶには、そういった知識や経験も必要になるのです」
いい感じに歴史を交えた助言まで行っていた。
逸人はこれら全てを聞き逃していたわけだが、これにも原因がある。
逸人は現在、ネガティブな感情を持ち越せない。
それは精神に住み着いた悪魔が担当しているからだ。
しかし、悪魔は昨日の出来事でへそを曲げており、その役目を放棄。
結果として、逸人はネガティブな感情のキャパオーバーでフリーズを引き起こしてしまったというわけだ。
間違ってほしくないのは、逸人には友人も居れば、いじめられていた過去もないこと。
ただ、だからこそ。
学園生活においての失敗などいくらでもあり、その経験の多くに恒例行事が含まれていたため、どうしても嫌悪感が滲み出てしまい、容量不足で溢れてしまったに過ぎないのだ。
それでも指示に従い現地へ同行しているあたりに日本人を感じる。
ついでにヤンキエルについても解説しておこう。
彼女は喧嘩を司る神を目指す天使である。
故に、そのための知識や技術の多くを習得しており、その成果により位階も十段階中の七まで達しているほどの強者でもある。
喧嘩にあるルールはたった1つ。
敗者だけが敗北を選べるというものだけ。
どういうことか?
勝者は勝ち方を選べないということだ。
明確な勝利条件が”相手に負けを認めさせること”であるため、どんな手段を取ろうとも、相手が負けを認めなければ勝ちとはならず、反則もないため泥沼になりやすいとも言える。
それを避ける技能として、彼女はより多くの力を操る術を手に居れた。
と言っても、特別な力じゃない。
なんでも武器として扱えるようになった。それだけにすぎない。
だがその器用さで武器を扱えば、当然それなりの効力を発揮する。
ここで漸く話が戻って。
「おっし! どうだ? お前ら! 天使は弓ぐらい使えねぇとキューピットにもなれねぇんだぞ‼」
目にも留まらぬ速さでヤンキエルが放った矢は、見事に羽ばたく鳥を射抜いており、お手本という求められた役目をしっかりと果たしていた。
その戦果を片手で拾い上げ、誇らしそうに、見せつけるようにして歩くと。
彼女はそれをママエルへと渡し、自慢げに逸人の元へ戻る。
「あんな小物じゃお前は満足しねぇだろうから、森の奥まで行っちまおうぜ。もちろん、二人っきりでな!」
そうヤンキエルは耳打ちするものの、反応がない。
なぜなら、言われた逸人の感情が追い付いてくるのはまだ先の話だからだ。




