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春の訪れ1

 入学式。

 講堂(こうどう)や体育館に全生徒が集まって―――・・・というような式はなく。

 校庭というか運動場というか、学び舎を目前する広場で流れ作業的に祝辞(しゅくじ)と説明を受ける。

 イメージとしては部活動の勧誘(かんゆう)に近いだろうか。


 そんな形式なせいで、逸人は(はか)らずもとんでもなく目立つことになった。

 理由はもちろん、ママエルだ。

 彼女は教員であり、見目も(うるわ)しく、学園関係者からは既知(きち)の存在である。


 だからこそ逸人は彼女に相談した。

 所持品や向かうべき場所、その他こまごまとしたルールなどを。

 そうしたらママエルは手を合わせてこう言った。


「それじゃあ案内してあげるわね!」


 断るべきだったのだ。

 逸人はその背中を追いかけるぐらいに思っていたが、ママエルは母親だ。

 母は子をどうやって案内するだろうか?


「ねぇ――あれってさ・・・」

「・・・見たことないよね?」

「・・・・・・恥ずかしい―――」


 ヒソヒソと声が聞こえる。

 聞こえてしまう。

 雑音に(まぎ)れているはずなのに、どうしても。

 拾ってしまう。

 完全ではないにしろ、その内容は察せられるところがあった。

 なぜなら――、


 逸人とママエルは手を繋いで歩いているからだ。

 しかも指を絡めた恋人つなぎである。

 なんならそれを見せつけるように、前後に強く揺さぶっている。


(死にたい・・・・・・)


 ポジティブな感情が強く表れるはずの状態ですら、成人した青年が母親とお手々を繋いでの散歩を衆人(しゅうじん)(さらす)すのは極限の羞恥(しゅうち)だった。

 しかし、差し出されたその手を断る勇気など逸人にはなく。また、事ここに至るまで美女と手をつなげるんだ浮かれるぐらいには楽観的に捉えていたのはポジティブのせいか。


 顔を朱に染めながら、それでも覆わないのは薄眼(うすめ)でも周囲を観察するため。

 目的が有っての入学だ。感情に負けて役目を忘れるのはこう、負けたみたいで嫌じゃないか。そんな意地で張り合う。


 ただわかってはいるのだ。

 悪魔の父親がそんなにすぐ見つかるわけがないことは。


 わかってはいるのだ。

 薄目で情報を集めたところで、精査(せいさ)できるほど確かな指針を持ち合わせていないことも。


 そう、わかってはいるのだ。

 どんな言い訳を並べ立て、なにを取り(つくろ)うとしてみたところで、この今の記憶や感情が消えることがないことなど。


 わかってはいるのだ。

 けれど、(あらが)わずにはいられなかった。

 意味などなくとも。

 逸人はこれでも男の子だから。

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