別の側面7
朝。
眩しい日差し――・・・などを感じることはなく。
「イツヒトさん! 朝ですよ~!」
ガチャンと無遠慮に部屋の扉が開き、聞き慣れない声が呼ぶ。
薄暗い部屋に眩しいのはママエルの美貌。
寝ぼけ眼を擦り倒して現実と向き合う。
「あら! お利口ですね! 今日は入学式ですから、ごはんも張り切って作ったんですよ! さあ、早く下りましょう? あ、でも! 昨日は歯磨きせずに寝たでしょう⁉ ダメですよ! ちゃんと歯は磨かないと!」
覗き込むママエルが起き抜けの逸人へ、メッ! とするが、された側からすればとんだ茶番である。
のそのそと起き上がり、手を引かれるままにリビングへ。
未だ夢心地にいる逸人は、出されたものを疑いもなく受け取り、食事が始まる。
張り切ったというだけあって、朝食は豪華だ。
奮発と言うほどではないが朝に食べることを思えば、唐揚げだって豪華だ。
「・・・いただきます」
「はあい! お肉を食べて元気に、気分も上げて行きましょうね! という思いを込めて、げんこつみたいにおっきな唐揚げですよ!」
無意識に、無感情に、無造作に頬張る。
噛むたびに肉汁が溢れ、旨みが広がり、顎の運動に伴い脳が覚醒する。
「おいしい・・・」
「まあ! 嬉しい! いっぱいありますからね!」
そうやって口に出した辺りで愕然とする。
(もう朝になってる‼‼)
もっそもっそと咀嚼しながら、背中に流れるのは冷や汗か、脂汗か・・・。
徐々に焦りが体に現れはじめ、気付けばかき込むように食べていた。
「そんなに急がなくても、ごはんは無くなりませんよ」
「いや、その、準備が――っ‼‼」
「ああ! そうですね! 晴れの日ですものね! 私もおめかししないと」
ハッとしてママエルも引っ込み、とりあえず食器を流しに出した逸人も、一旦部屋へ。
(どうしよう⁉)
(知らねぇよ! バカ!)
(そんなこと言わないでさ! なにか要るものとか・・・‼)
(そんなのアイツに聞けばいいだろ! ついて行けば道にも迷わねぇよ‼)
(それもそっか!)
アイツというのは他でもないママエルだろうと予測できた。
ついでに歯ブラシがどこにあるかも聞こうかななんて、謎の余裕を感じた逸人はすぐさま階下へ向かい、先日は手を付けなかった部屋の扉を開ける。
「あの、持っていくものって―――」
「――え?」
ママエルはおめかしをすると言っていた。
女性の身嗜みには時間が掛かるのは常識と言えるだろう。
更に自身でさえ無遠慮であると思ったはずの無確認の開扉。
後のことは想像に任せる。
怒られることこそなかったが、入学へ尾を引く形になったとは記しておく。




