別の側面6
非常に積極的なママエルのおいしいですか? 攻勢をどうにか切り抜け、自室へ戻る逸人。
片付けたはずの調理道具やトレーニングマシンが、またしても配置されていたことを除けば特別問題はなかった。
欲を言えば洗面所の洗濯物の余りも隠しておいてほしかったが、見なかったことにすれば、それは無かったも同然であるという理論でごり押す。
記憶から消されていたが、服装は布に近いのに下着はちゃんと下着だった。自分のパンツも布製トランクスとでも言うようなもので、履き心地は良い。
(もういいよな?)
扉を閉めたタイミングで悪魔の囁きが。
(ママエルさんも洗い物してるみたいだし、大丈夫だと思うよ)
(もう声には出すなよ⁉)
(ごめんって、気を付けるから!)
(それじゃ、再確認からな!)
小言を投げられながら話は続く。
目的1、悪魔の父親の捜索。
父親を見分ける方法は、父親に近付くこと。
そうすることで悪魔的な能力かなにかで気付けるらしい。
天使に限らず、神や悪魔も見た目はおろか性別さえも変えられるようで、特徴などは参考にならないのだとか。
目的2、神になる。
神になることができれば、ほとんどのことは自由自在(天界限定)になるらしく、上手くすれば下界へ降臨することも出来るようになるとか。
天界自体が神の手で創られたからの待遇というか、権能らしいんだけど、破格過ぎないかと一般人的には疑問だった。
目的3、学業。
これは前述した目的1及び2の達成に必要な手段となる。
位階の取得は基本的に学業の成績と結びついているため、これを疎かにはできない。
特に試験などでは上位に食い込む必要があるようだ。
(学業ってさ。人間のとはたぶん違うよね?)
(悪いけど知らねぇ・・・っつーか、知ってるわけねぇだろ)
(まあそっか)
(オレもここに来たのは初めてだからな)
目的は3つもある。
正確には目的2つに手段が1つだけれども。
しかし何をすればいいのか、どうすれば効率的なのか、どんなことが役に立つのかが、皆目見当もつかない。
現状の方針は”とりあえず頑張る”だ。
しかもその努力についても、逸人へ一任されている状態。
(もうちょっとなんかない? 明日からが凄く不安なんだけど)
(そうは言ったってよぉ・・・)
悪魔の声も尻すぼみである。
お互いに、自信も確信もありはしないのだから必然か。
う~ん・・・と1人で腕を組み、2名で頭を悩ませる。
この時に使用している頭とは自分の脳だけなのかどうかという、捨て置けばいいだろうレベルのささやかな疑問が通り過ぎた後、ごく平凡な問いが。
(お母さんはお父さんについて、どこが好きとか言ってなかった?)
(なんだよいきなり・・・)
恥ずかしさを押し込めたような反応を見せる悪魔。
親の惚気話など、子供にとっては恥ずかしいばかりで、そういう意味ではこの反応は正しく、そして同時に子供らしさも感じられた。
(いやほら、天使ってさ! 名前である程度、傾向が出てるというか・・・特徴的すぎるぐらいイメージに引っ張られてるわけじゃない? だから例え見た目が変わってたとしても、内面ならそうは変わらないんじゃないかな)
(そう言われてもな・・・)
逸人はしばらく待ってみるが、頭の中は無音のまま。
該当するような話をしてこなかったか、特徴と言えるほどのものがなかったのか。
けれど、特徴がなかったとすればそれはおかしな話になる。
(だったら名前は?)
(・・・・・・知らねぇ)
(え⁉ 親の名前を⁉)
(だって教えてくんなかったんだもん‼‼)
一層子供っぽい返答に困ってしまう逸人。
微笑ましい――などとは、当事者は言っていられなかったりするものだ。
(あれ・・・? そういえば、君の名前は?)
(――ッ‼‼ 教えてやんねぇ‼‼)
キィン! と頭につんざく文句。
どうやらヘソを曲げられてしまったようだ。
その後は話かけても無視されるばかり、仕方がないので不貞寝で対抗した結果、愚かにも寝落ち。
朝になって慌てふためくことになるのだが・・・どちらのとは言えずとも、自業自得には違いなかった。




