別の側面5
家族に会いたい・・・?
そう言われて初めて、逸人は家族のことを思い出した。
(ここは天界だぞ。その上で、お前には神様を目指してもらうんだ。普通に考えれば、もう家族に会えないとか、そういう感情が生まれるはずだろ?)
(それは・・・確かに。なんなら真っ先に考えるような・・・? だって、言ってみれば今の俺って――)
((――死んでる))
(ようなもんだよな。だから事前に説明するつもりだったんだ。下界・・・人間界に戻れるかの保証はできねぇからさ)
何故?
頭には疑問が浮かぶものの、心は凪。
いいやそれどころか、家族について思い出せなかったのは、天界での出来事があまりにも多く、それぞれが衝撃的で、面を喰らっていたせいだ―――などと、言い訳すら思い浮かんでいる。
これはハッキリ言って異常だった。
(なんで・・・?)
(こんなに冷静なのかって? 言っただろ、オレのせいさ)
(君の?)
(そうさ。オレ達は今、同化してる。それは理解してるよな?)
(それはまあ、なんとなくは)
(当たり前の話だけどさ、1つの体に2つの魂なんて入るわけがねぇんだ)
(その弊害で感情がおかしくなってる?)
(そう思ってもいい。要はオレ達の存在を安定させるために、それぞれで別の感情を受け持ってるって状態なんだ)
(感情を受け持つ・・・?)
(オレはネガティブな感情。悲しさとか、辛さとか、苦しさなんかがそうだ。そっちは逆にポジティブな感情。楽しさとか、嬉しさとかそういうやつ)
(それは・・・)
(同情とかでこんな受け持ちにしたわけじゃねぇぞ? どうしたって身体を動かすのはアンタら人間になる。だから、行動しやすいようにポジティブな感情をそっちに割り振っただけだ。それに父親捜しだって、感情的にはネガティブな理由から来てる。それを忘れるような選択をしたくはねぇさ)
悪魔の説明に、逸人は自身の軽率さを恥じた。
覚悟という言葉を持ち出したのは悪魔の方で、人間にそれを強いるのなら当然、自身だってそれなりのものを用意しているはずだと思うべきだった。
(あんまり気にすんなよ。あくまでも巻き込んだのはオレなんだから)
(いや、そんなことは俺だって――)
(そんなことあるだろ。あの時、お前はオレを無視したじゃねぇか。あの時トラックが来てなけりゃ、こうはなってなかった)
(・・・そうかもしれない。でも)
(でも?)
(手を掴んだこと、後悔はしてないよ。むしろ、見ない振りをしたことこそ、後悔してる。もし話しかけてたなら、理由を聞いていたなら、きっと)
(協力したはずって?)
(ダメかな?)
(ダメだろ。今のお前はポジティブな考えが強くなってるからそう思うだけで、それを本心とは言えねぇじゃん)
(それだって、ネガティブな考えが強くなってるからじゃない?)
(・・・・・・・・・言うじゃねぇかよ)
(ダメだった?)
(ダメじゃねぇ――けど、大変だぞ? 神様になるだけより、ずっと)
(神様になる必要はないんじゃ?)
(下界に帰りたくねぇのか?)
(え⁉ 帰れるの⁉)
(神様にさえなれりゃ・・・たぶん)
「それならまあ、やりますか!」
意気込みはいつの間にか口から。
しまった! そう思うと同時。
「ごはん出来ましたよ~‼‼」
雑念を掻き消すように夕食の呼び声が届いた。




