別の側面3
カチャンという簡素な音と共に開くドア。
足音が部屋前まで移動していたことから予期してはいたが、やはりノックはない。これも母親の共通概念による弊害か。
「大きな声だったけど、どうかした?」
「大丈夫です! ちょっと寝ちゃってたみたいで、この段ボールの山を見てまだ実感がなかったのでその・・・」
「あら~そうね、ごめんなさいね。崩れてきちゃうかもしれないものね」
「気を付けます」
「そ~お? アレだったら私の部屋で寝ても――」
「気を付けます」
「そんなに直ぐに言わなくてもいいのに・・・」
いじけた姿に僅かな罪悪感が疼くが、そもそも原因がママエルであることを思い出して冷静に沈黙する逸人は、こういう場面で母親に隙を見せてはいけないことを知っていた。
どうせ後から、ここでの譲歩を引き合いに出されてまた同じようにお願いを聞かされることになり得るからだ。
「今お夕飯作ってるけど、食べられる? それとも寝ちゃう?」
「あ、食べます。いただきます」
「ふふっ、いただきますはまだ早いわ。でもそうよね! ご飯は食べないと、力が出せないものね! あ、そうそう。明日の朝ごはんなんだけど、ごはんとパンだったら、どっちがい~い?」
「えっと・・・じゃあ、パンで」
「わかったわ! 丹精込めて焼いておくわね!」
そう言い残して部屋を出ていくママエル。
踊るような足取りが音として届くが、やっぱり食事が好きなんだろう。それも、パンを自分で焼くほどに。
それすらも概念による影響なのかもしれないが・・・ある意味、恐ろしいほど完璧な母親像と言えた。
それこそ気を抜くと溺れてしまいそうなくらいに。
(行ったか・・・?)
「行ったけど、どうしよう?」
耳を澄ませて、足音が聞こえなくなってから小声で話す。
聞きたいことはある、けれど声に出すと不審がられる。その中間をどうしよう? と逸人は訊いたのだ。
しかし、
(考えてることもわかるって言っただろ‼)
怒られて、そうかと思い出す。
(俺の中にいる・・・んだったよね?)
(そうだよ! おかげさまでな‼)
(俺のせいなんだ・・・)
(お前がオレの腕を掴んだんだからな‼)
それだけで? と考えてしまうのは最早、仕方のない反応だっただろうが。
(それだけで大問題なんだよ‼‼)
伝わってしまう以上、デリカシーに欠けた質問として捉えられたとしても、致し方なしである。
(オレのこと、覚えてるよな?)
(そりゃあまあ・・・インパクトは強かったからね)
(みすぼらしい以外の部分は?)
(う・・・、根に持ってる)
(当たり前だろ‼ それで! 他の部分は⁉ どうなんだよ⁉)
急かされて再生する。
トラックに轢かれる間際のこと。
(そういえば、コスプレしてたような・・・?)
(コスプレじゃねぇ‼ 今なら・・・わかるだろ?)
あの時に見たのは角、羽、尻尾。
どれも悪魔みたいな―――。
(――まさか!)
(そのまさかに決まってるだろ‼)
どうやら、助けた少年は悪魔だったらしい。
ということは。
(今こうなってる原因って・・・⁉)
(お前がオレの手を勝手に掴んだからだ‼‼)




