別の側面2
(・・・・・・・・・)
ただ天井を見つめる逸人。
(・・・・・・・・・おい)
余韻に浸る様に、あるいは呆けていた。
(・・・・・・おい! いい加減に気付けよッ―――‼‼)
「―――ッ⁉⁉」
耳鳴りのような感覚で声が鼓膜に突き刺さる。
それは頭を殴られた衝撃を思わせ、横になっていた身体を叩き起こした。
「な―――ッ、え?」
逸人はすぐに周囲を見回したが、段ボールと扉の他には何もない。
怖くなって、つい自らの手を見てみるものの、目に見える異常はない。
精々、服装がテルマエだかロマエだかに染まっただけだ。
「・・・・・・・・・」
しばらくそのまま身構えていると、
(はぁ~・・・やっと聞こえるようになったか)
どことなく憂鬱混じりの声が、またしても鼓膜に響く。
耳の奥が突っ張るような、引き絞られるような感覚が気持ち悪い。
「誰・・・? っていうか、どこから⁉」
(オレだよオレ‼ って言っても、今は逆に見えてないんだよな・・・)
「オレって言われても・・・せめて名前とかさ」
(名前なんて言ってもわかんねぇよ! 初対面だったんだからな‼)
今、逆、見えてない、初対面、だった。
これらの言葉が逸人に1つの影を浮かび上がらせる。
「もしかして、あの時トラックに轢かれそうになってた――」
(そうだよ‼ ったく、面倒なことしてくれやがってよぉ~‼‼)
逸人の予想通り、声の主は朝の通学中に助けたみすぼらしい格好の少年。
(助けられてねぇし、みすぼらしくて悪かったな‼‼)
キーン‼‼ とハウリングでもしたみたいに。
しかし、問題はそこではなく。
「まだ何も言ってないんだけど・・・」
(思ったことが伝わってるんだよ‼ こっちには‼‼)
隠し事などできそうにない状況。
それ以上に。
「じゃあさっきまでのこととか・・・」
(大変な状態だっていうのに、楽しそうにしやがって‼‼)
魅力的で年頃の異性の裸から受け取った思考を、まだ幼い少年に知られた。
そのことに後ろめたさが爆発する逸人。
なぜならそれは健全な青少年の育成に―――。
(そんなことはどうでもいいんだよ‼‼)
一際大きな叫びは、平衡感覚を失わせるほどに強烈で。
(お前、今どういう状態か分かってるのか?)
「えっと、何について?」
(オレとお前のことに決まってるだろ‼)
「決まってたんだ・・・ごめん。正直、全然わかってないね」
スゥ――ッ‼ という瞬発的な吸い込みの後、拍を置いてゆっくりと吐き出す息遣いが明瞭に聞こえる。
(オレが今、どこにいるか・・・わかるか?)
「そういえば――・・・」
もう一度、周囲を見やるが誰の姿もありはしない。
(つまり、そういうことだ)
「・・・・・・・・・・・・」
どういうことだろう? 逸人の脳内を占める疑問。
ただ、聞き返すのは躊躇われた。なんとなくだが、聞き返しちゃいけない気がしたからだ。
なんなら意味深に、そんな・・・とか言おうとも思った。
けれど、
(全部わかってるんだからな・・・!)
それらの思考すら読み取られてしまっては形無しだ。
(オレは――お前の内側にいる‼‼)
「えぇっ⁉⁉」
「あら~? どうしたの~?」
衝撃の告白に驚いて声を出してしまい、それが階下のママエルへ聞こえたのだろう。
トントンという階段を上る足音が近付く。
このままでは1人で意味もなく大声を出した変人だと思われて、今後の関係に支障が出るかもしれないと考えた逸人は、一旦思考を切り替えて言い訳の準備を始めるのだった。




