天使の世界21
どうにかこうにか、20余りの段ボールの排斥。取り敢えずの寝床を確保。これで明日は迎えられそうだと胸を撫で下ろす逸人。
これで凡そ部屋の3分の1を解放できた。未だ眼前には山積みの段ボールがそびえ立つが、災害の恐れがなければ崩落の危険もないだろう。
寝相によってはその限りではないが、そこの心配はないようである。
2畳ほどのスペースだが、初めて自分の部屋を貰った時のような喜びを噛みしめ、残りの山と閉ざされたままの押し入れからは目を逸らした。
中身の確認と選別を手伝ってくれたルールイールと、不要な段ボールを外へ運び出してくれたヤンキエルに改めて謝辞を現し、一端の区切りとする。
汗もかいたし、水回りの掃除がどうなったかの確認も――と1階へ。
「なにを・・・やっているのでしょう?」
「え? お洗濯よ?」
「掃除はどうなってんだよ・・・」
「あ! そうだったわね! うっかりしちゃったわ! だって脱ぎ散らかされた衣類が~、なんて言うんだもの~」
洗面所兼更衣室の扉を開けると、そこではママエルが洗濯機を稼働させ、こともあろうに浴室で洗った服や下着を干している場面に遭遇。
2名の天使が苦言をあらわにすることになった。
「せめて屋外に干してはどうでしょうか?」
「ダメよぉ! ベランダには入れないし、お庭へ出るための扉の前には荷物を置いちゃったもの! リビングの窓の前にも健康器具があるでしょ?」
「だからって浴室乾燥を使われちゃ汗も流せねぇだろ⁉」
「それは大丈夫! とっておきがあるから!」
とっておき? と全員が頭上に疑問を浮かべたが。
「おおおおお‼‼ この寮にこんなもんがあっただなんてなぁ‼‼」
「少し恥ずかしくはありますね。周囲からの視線は流石になさそうですが」
「そうでしょ? 昔ね! みんなで作ったのよ。私も頑張ったんだから!」
当時を思い出しているのか、ムン! と鼻息荒く拳を握るものの、迫力に欠けるのは言うまでもない。
しかし、不足しているのはそこだけだ。
出るところと揺れるところばかりの身体が、今さらけ出されている。
なぜならここは――、
――露天風呂だから‼‼
「いやいやいやいや‼‼」
全裸に剝かれた逸人が、早すぎる展開に追いつけないまま、必死に目を閉じて両手を前に突き出し、それらを左右に振ることで拒否の意を示す。
その反動でナニが揺れてるだとか、その他の生理反応も横へ。
ただ抗うポーズを見せる。
「なに照れてんだよ! どうせ早いか遅いかしか違わねぇだろ?」
「一緒にされると困るのだけど・・・天使は見た目を変えられますからね」
「私はママだから、気にしなくていいのよ?」
「いやいやいや‼‼」
(男にとって都合の良すぎる展開。流されちゃダメだ。いつか揺り戻しが、しっぺ返しが来るに決まっている‼)
現代人が染みついた逸人は、素直に喜び勇むことが出来ず。
それでも、自分の肌に触れる全てに興奮を禁じえなかった。
あるいはその過程を、状況を、受動的であることを楽しんでいたのかも。
自身のM疑惑を含め、逸人は流された。
垢も恥も汗も涙も何もかも。
湯船に浸かったかどうかの記憶さえもなく、気付けば段ボールの壁に囲まれて、見知らぬ天井を見上げていた。




