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天使の世界20

 可愛い子ぶった反応で立ち去るママエルを尻目に、2階の現状を再確認。


「他の部屋は本当に私物って感じのモンばっかだったぞ。それも1人や2人の荷物じゃねぇから、片付けるのは無理だな」

「そうなるとやっぱり、この部屋しかありませんね」


 真実を確かめに行ったヤンキエルが早々に戻って首を振る。

 他人の想いでの処分など、面倒過ぎてやりたくないのだろう。

 となればルールイールの言う通り、この部屋を片付ける他にないのだが。


「っつーか、ホントにどっから持ってきたんだろーな? こんなもん」

「どこかで売ってるんじゃ?」

「さっきコイツが言ってただろ? 天界にゃ災害なんざねぇって」


 普通に聞き返した逸人に、ヤンキエルが指さしながら返す。


「そういえば・・・それで言うと、消費期限って―――」

「あるわけねぇだろ? だから気になってんだよ」


 中を見ては閉じて移動を繰り返す作業。

 自然、雑談への熱が(こも)る。


「恐らくですが、下界から入手したものかと」

「そんなことできんのかよ?」

「ええ、大天使から与えられる権限の1つで――・・・って、あなたは講義で聞いたはずでしょ?」

「あー・・・寝てたかもな?」


「はぁ・・・・・・・そんなだから――」


 ため息までは(ゆる)したヤンキエルも、ぼそりと(つぶや)かれたオマケには食いつく。


「そんなだから、なんだよ?」


 (せま)い室内で、(ひたい)同士が密着する(にら)み合い。

 正確には一方が押し付けているだけなのだろうが、やられている側なのに涼しい顔をしているルールイールの方が怖い気がした。


 (あん)(じょう)

「女性的な魅力で負けるんじゃないの?」

 抹殺(まっさつ)のラストブリットが如く、とんでもない一撃が襲う。


 脳天でも撃ち抜かれたかのように、()()るヤンキエル。

 言ってやったとばかりの表情でせせら笑うルールイール。

 なにもやってもなければ、関係もないのに恐れ(おのの)く逸人。


 だが知っていた。


「アタシの方が魅力的だよな⁉⁉」

 反動でも生かしたのかと言うほどの変わり身。

 それによって(すが)りつかれる逸人は、こうなるんじゃないかと。


「下界から物が手に入れられる権限って、なんで大天使だけなの⁉⁉」


 だからこそ、返す刃は()いでおいた。

 ヤンキエルはあんな風でもどこか未練(みれん)たらしく、ルールイールは雰囲気に忠実なほど説明好きだ。

 ここは気の早い湿(しめ)()(かわ)いた解説で吹き散らすしかないと振る。


「それは存在力のせいですね」

「存在力?」

「人々の信仰心と言ってもいいでしょう。神やそれに連なる存在は、信仰や信心によって力を得ることができ、天界や神界ではその力そのものが存在としての強さに反映(はんえい)されます」

「要は知名度と信仰度を現した言葉なんだね」


 逸人の解釈は(あた)らずとも遠からずではあるが、芯は喰っている。

 そもそも、天使などという存在はロボットも同然。

 器ではなく中身を求めた神々は、欲望を植え付けることで進化を(うなが)した。


 しかし欲望とは形なきもの、その答えさえ同じではない。

 満たされるためには()めなければならないが、溜まり切ってしまっては意味がない。

 消費こそが均衡(きんこう)と変化の鍵だった。


 そこで用意されたのが力である。

 強きものが得、弱きものが失うが日常。

 至極(しごく)わかりやすい摂理(せつり)と言えよう。

 奪い合う必要はないが、争わねば得られぬ欲もある。


 故に存在を力に変換できるよう、神は天使に権限を与えた。

 信仰や信心を集める利点を可視化し、体感させることで常態化させた。

 自己を確立する最大の(えき)を生み出したのだ。


 間違っても信仰を得たから神が強いのではない。神は元々強いのだ。

 存在力は、その一端を天使に触れさせるためのもの。

 ただ天使へ伝える努力を(おこた)った結果、少々()じれて伝わったようだが。


「私達天使はまだまだ無名。存在力も小さく、下界とやり取りを出来ません。そんなことをしたら存在力を消費しすぎて消えてしまう恐れがあるからです。天使が司るものを1つに絞るのも、信仰を集めやすい他に、偶像として影響を受けやすいからという理由があります」

「影響を受けるのがいいことなの?」

「人間的な話で言えば、想像に近い存在の方が妄想(もうそう)(はかど)るでしょう?」


(あの、なんか違うな? っていう感覚がない方が信仰的にはいいんだな。裏切られた! みたいな話にもならないだろうし・・・解釈違いって言葉はある意味、的を()てたわけだ)


 妄想――などと言われて内心ドキッとしたものの、理屈はわかった。

 ○○の天使ってこうだよね! に引っ張られた方がおいしいと。


「ってことはさ、ママエルさんって―――」

「母親よ。誰のとか、どんなとかは置いておいてね」

「片付けが苦手な理由が分かった気がする」

「男は本当にそういうのが好きなのか? なあ・・・」


 力が抜ける逸人は、別の理由で肩を落とすヤンキエルに少し同情した。

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