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天使の世界19

 玄関へ向かうとママエルが(たたず)む。


「先生、流石に寮内が散らかり過ぎです」

「これから入居する奴も居るんだし、片付けちまおうぜ!」

「ルールイールちゃんにヤンキエルちゃん? どうして・・・」


 寮母としてのママエルに苦情を入れる両者に遅れる形で逸人が視認される。


「あらあら! 恥ずかしいところを見られちゃったわね」


 頬を手で押さえつつ困り顔を作る辺りに、まだ余裕を感じなくもないが、そこから顔を(そむ)けている事まで加味(かみ)すれば、恥ずかしがってはいるようだ。


「なんというか、勝手に上がり込んだみたいになって・・・すみません」

「ああっ! いいのよ⁉ 悪いのは私だからね! えっと――」

「只野逸人です」

「イツヒト君ね! ごめんなさい。それと、これからよろしくね!」


 羞恥(しゅうち)からか赤らんだ顔で、申し訳なさからか(かが)んだ姿勢で挨拶をされる。

 紅潮(こうちょう)した頬に上目遣いで優しさを体現するかのような微笑み。

 ゆったりとした布一枚では到底支えきれないだろう質量が、前傾(ぜんけい)によってぶら下がることで強調された胸元。

 そして両手を包み込んで引き寄せるように言われた『よろしくね』の一言。


 おかしくは無いはずだ。

 なのに、見てくれでは男を倒錯(とうさく)させる魔性の獣が完成していた。


 名前の発音が若干(じゃっかん)変であることなど、指摘したい気持ちがあったのに。

 逸人から声に出せることはなかった。


 口を開けば、うわすっご! と()らしてしまうに違いなかったからだ。


「・・・・・・おい」


 自然、面白く思わない天使が1名。

 低い声が耳元で刺さる。


「いえ、アレは仕方がないでしょう。私であっても圧倒されますから」


 そんな雰囲気を破ってくれたのは残った1名。

 規範を重んじる彼女でさえ、違反ではない天然の脅威(きょうい)には手も足も出ず。


「・・・どうかしたの?」


 包み込んだ手はそのままに、ただ当事者だけが首を捻った。


「なんでもありません。掃除をしましょう」

「納得いかねー‼」


 ヤンキエルの不満は解消されることなく、作業へ。


 ダイエット用品や調理器具は、まとめて物置へとしまうことで解決とし、その過程で段ボールが天界でも利用されている事実に関心する。

 都度(つど)それぞれへのコメントをママエルが挟むが、ルールイールが率先して受け流すことで効率化を図った。

 おかげでリビングやキッチンの整頓は小一時間もかからず、良好な滑り出しだった。物置に空きがあったのも(こう)(そう)したと言えるだろう。


 問題は逸人が住まう部屋。

 更には水回りだ。


「物置にはスペースがあったのに・・・」

「どちらかと言えば、こちらに詰め込んだ結果として、物置にスペースがあった・・・と言うべきでしょう」

「コレ、中になにが入ってんだ?」


 3名を出迎えたのはタワーだ。

 引っ越し業者のトラックの中身かと見紛(みまが)う程の箱の山。

 積み立てられたそれらは天井付近まで迫っており、居室とは思えない圧迫感を放っていた。


「そんなにダメ? 中は非常食とか、災害時に役立つキットよ? 他の部屋は本だったり、服だったり、前に転生者だった子が置いて行った私物だけど、コレはいいんじゃない? 必要なものでしょ?」


 ママエルは必死の説得を試みるも。


「天界に災害の記録はありませんよね?」

「つーか、どうやって手に入れたんだ?」


 天使達には(ひび)かず、一縷(いちる)の望みをかけて逸人を見るが。


「これ、消費期限きれてる・・・」


 中を検めた反応がよろしくないことを(さと)り、肩を落とした。


「全部、処分しましょう」

「燃えるゴミでいいのか?」

「銀色のブランケットとかあるんだけど、大丈夫かな? アルミ製だよね」

「天界の火であれば燃やせるでしょう。環境へ影響も、下界ほど気にする必要はありません」

「使いまわせるなら、その方が良いってだけだな。つっても――こんなもん誰も使わねぇからよぉ」


「一応、寒さは(しの)げるけど」

「天界は寒くならねぇぞ」

「じゃあ意味ないね・・・」


「シクシク。あんまりだわ」

「先生、暇なら玄関から水回りまでを片付けてくれませんか? 衣類が散見されていましたが、私達が片付けてもよろしいのでしょうか?」

「グスグス。仕方ないわね」

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