天使の世界16
「随分と話し込んでしまいましたね」
「もう昼過ぎかよ! 飯でも食いにいくか‼」
時刻を告げる特有の音色が空腹を教える。
両者に釣られて見上げれば、シンプルな壁時計がなぜか無性に懐かしく、一瞬時を忘れる逸人。
「どうした? 来ないのか?」
それをヤンキエルが呼び、意識が戻る。
「あー・・・いや、お金がね?」
「そんくれぇ気にすんなって! アタシに任せとけ‼」
「あなたに任せなくとも、職員棟で手続きをすれば解決できるでしょう? 転生者には支援があるんだから。恩着せがましくするのはやめなさい」
「そんなつもりねぇよ‼ っつーか、昼は受付も閉まってるだろ‼」
「確かにそうね。失念していたわ」
それじゃあ行きましょうか? とルールイールの方はなにも無かったかのように、ヤンキエルはそれに謝れよ! と抗議するが、同行を否定はせず。
途中に通った地下街へと足を延ばす。
「どうだ? なんか喰いたいもんとかあるか?」
「なにがあるのかを説明する方が先ではないの?」
「あ、それは知ってるから大丈夫」
「なんで飯のことだけ・・・もしかして食いしん坊か⁉」
「そうじゃなくて、ママエルさん? 先生? に聞いてさ」
「ああ・・・それは災難だったわね」
「そんなことは――ないよ?」
「でも、そのせいで困ってたでしょう? 知りたいことが知れなくて」
「それはまぁ・・・そうだね」
「けど、そのおかげでアタシらは出会えたんだ。アタシは感謝してるぜ?」
「私としてもいい出会いだったとは思うけれど、迷惑に思ったのならそれはキチンと伝えておかないとでしょう。これからも付き合って行くのだから」
なにかとやんやと言い合いながら、周りが込みだした辺りで地下から脱出。結局は出店で買って食べ歩く形になった。
これは人混み、いや天使混みか。いずれにせよ、転生者である逸人に注目が集まれば厄介なことになるのは必然だと考え、それを嫌った故だ。
「アタシ以外の奴にはまだ知られたくねぇ! いずれ増えるとしても、今だけはアタシだけを見ててくれ‼」
「私としても、今はまだ誰にも近寄って欲しくはありません。元とは言え、人助けであれば実績として評価されますからね。それに天使は姿も性別も変更できるので、目を離した隙に見覚えのない誰かになられて言い寄られても、それはそれで困るでしょう?」
といった具合の話をしながら、B級グルメを片手に職員棟へ。
受付の昼休みは学徒より短く、1時間もする頃には再開していて、しかしソースの匂いを引き連れた来賓にはやはり、いい顔はされなかった。
(というか、ルールイールも止めないんだね)
タコ焼きを携えて並び立つ規範の天使に疑問を持つ逸人だったが、どうも受付にはそういったルールはないらく、ハンバーガーを頬張るヤンキエルにすら触れられないまま。
「それではこれで手続きは完了になりますので、当面の資金と――こちらは寮の鍵になります。失くさないように、また万が一に失くしてしまった場合、速やかに申請していただくようにお願いします」
あっけないほど順調に転生者として登録を済ませ、支援を受け取れるようになった。
下界では考えられないほどのスピード対応に感動しつつ、でも他の案件が無いからかな? なんて邪推を交えながら、受け取った資金を財布へ。
その過程でヤンキエルに食事代を渡そうとしたが、断られる逸人。
なんでも、アタシ達が出会った記念! だそうだ。
言われた側はどういうこと? と首を傾げるしかなかったが、言った側は少しでも印象を良くしておきたいという打算に塗れている。
恩着せがましいと指摘したルールイールの言は正しかったのである。




