天使の世界15
「さて、これで残すは転生者について――だけになったのだけど、先に謝っておくわね。ごめんなさい」
「え? なんで・・・」
「それほど詳しくはわからないの。前回の転生者の方が来たのは2000年も前だから、実情まではね。だから、どうしても対外的な話になってしまうでしょう? その謝罪をさせてもらいました」
「2000年前って言うと」
「そう、神様になった方ね」
約2000年前ということで、勝手にどこかの宗教の神様かと疑っていた逸人だったが、下界とは時間の流れが違うと聞いたことでその懸念は晴れた。
おかげで宗教絡みの面倒臭さは消えたものの、詳細不明という違った面倒臭さが沸き立つ結果に顔をしかめる。
「詳しく知ってそうな人・・・天使? とか先生に心当たりってない?」
「人類史を教えてる大天使ヒトミール先生なら何か知っているかもしれませんが、それ以上ってなると神様に直接伺うしかないでしょう」
「神様に・・・それなら、対外的な部分だけでもお願いしてもいいかな?」
「ええ、もちろんよ!」
胸を張って答えるルールイールの姿を、ヤンキエルがケッという表情で眺めている。
「転生者は元天界の存在が下界に生まれ変わり、何回もの人生を経て、神格を手に入れた後に亡くなった人間のことを指す言葉とされているの。天界でどんな姿だったかは関係がなく、神格を手に入れた時の人間の姿で現れると言われているけど、どうだった?」
「えーっと、死んだ自覚もないぐらいには変化がなかったと、思う」
鞄や財布、スマホなども持ったまま。
生憎スマホが圏外なことだけは確認済み。
格好だけで言うなら、飛翔できる天使よりもよっぽど浮いている。
「だとしたら、転生者については私達にも知らされている通りの存在である可能性が高いということね。他の特徴では、天界の知識を完全に失っているとか、環境への対応力や適応力、物事の吸収力といった部分が天使より優れているとか、神格を所持していることから何か特別な力を得ているとか」
「特別な・・・・・・?」
「自覚はないの?」
「今のところは何も?」
首を傾げる逸人は至って真剣だ。
おかしなことは起きなかったのだから、その認識にズレはない。
逸人の視点から見れば――に過ぎないが。
しかし、それではおかしなことになる視点が2つ。
1つはもちろん、問いかけたルールイールの視点。
勤勉な自分よりも大天使に近いヤンキエルが、なぜ転生者に固執しているのか。
それも、わざわざ体型まで変えて好みの姿になろうなどと。
もう1つも必然、ヤンキエルの視点。
逸人を好きになった理由が忘れられたみたいに。
それはつまり、自身の存在の否定にも近しい。
「そ―――ッんなわけねぇだろ‼‼」
だからこそヤンキエルは勢いよく立ち上がり、吠える。
自らの価値を証明するために。
「ええ⁉ なにかあった⁉」
「アタシの蹴りを受けても微動だにもしなかっただろ⁉」
「アレは寸止めだったでしょ⁉」
「そんな手加減みてぇなことはしねぇ‼」
拳を握ってまでの力強い表明。
あまりにも物騒な宣言だが、驚いたのは意外にもルールイールの方だった。
「あなたの、蹴りを―――⁉⁉」
「おう! 業まで使ったのに涼しい顔でよぉ‼ その瞬間にピンと来たね! 一緒になるならコイツしかいねぇってな‼‼」
そしてまたしても、ガッ! っと肩を組まれることで逸人は縮む。
顔やら胸やらのせいで。
しかもこれによって大事な言葉を聞き逃がした。
あるいはチャイムのせいだったかもしれないが。




