天使の世界14
「この学園ができたことによって、天使は神様の命令以外でも自律的に行動するようになりました。天使を人間へと近付けるために、欲望というものを植え付けたの。自分達と同じ存在になることを許可までして」
「それが学園創設の理由なんだ。でも、そこまでするほど神様が人間を好きになったのはなんでなんだろう?」
「幾度にもわたる”高い知能を持つ生命を作り出そう”という試みの中で唯一の成功例だからではないでしょうか。人間より後に創られた天使には正確なところは知り得ないのだけど、人間の誕生にも神様は関わっていたはずよ」
「ある意味の、我が子に向ける感情みたいな・・・?」
何度も繰り返した末の成功なら固執してしまう感情も理解できる。
そうして得た成功体験を追い求め、人間を模して天使を創ることも。
しかし。
「でも学園はその役目を全うできてないと・・・」
逸人がポロリと言葉にする。
事実。ルールイールによれば、今この瞬間まで天使が神へと昇格したことは無いという。
それはつまり、天使をより人間に近付ける手段としては成功していても、神へと昇格させる施設としては結果を出せていないことになる。
「なんでだよ? 学園のおかげで天使は人間に近付いたぜ?」
「でも誰も神様にはなれてないんだよね?」
「そうらしいな。アタシは知らねぇけど」
「だったら、この学園は期待した効果こそ発揮したものの、想定された機能は使われてないことになるんだよ。それって失敗て言わない?」
「ん~~~?? アタシにはその違いがよくわかんねぇけど、それはこの2億年の間に、学園に在籍した天使達がだらしねぇ成績しか残せなかったってだけじゃねぇのか?」
2億年。
何気なく発された言葉の響きにぶん殴られた逸人は表情筋を宇宙猫に支配される。
現在から2億年前と言われても、一般学生かつ雑学に明るくない逸人にはわかるはずもなく、ジュラ紀や白亜紀、カンブリア紀といった”なんか昔”を想像して意識を引っ張られる。
大きな三葉虫、アノマロカリスに恐竜達が入り乱れる頭の中で、当たり前のことに気付く。
「2億年前に人間は居ないだろッ‼」
持っていかれた意識を取り戻すための渾身のツッコミ。
本当の2億年前ならば、人間に限らず。地上にはほとんどの生物がいないことには気付かない。
「それはそうですけど、天界と人間界では時間の流れが違いますからね」
若干、面を喰らいながらもルールイールが教えてくれる。
「え⁉ そうなの⁉」
「考えてもみてください。全人口は80億人もいて、1日に亡くなる人の数も相当なものになるでしょう? その方々全員の元へ、死神や天使といった神の御使い達が駆けつけるには、同じ時間感覚では追いつきませんよ」
「そっ―――かぁ・・・でも天使だけじゃなくて死神も大忙しなんだね?」
「だから死神様は数が最多の神様なの。地域や言語によって姿も形も信仰も違いますから、役割を同じくしながらも皆様協力の上でお仕事をされているとか。それでも信仰や都合が付かず、天使が派遣されることもありますが」
「あれ? だとしたら役割が被ってマイナーになったとしても、死神にならなれるんじゃ・・・?」
「忙しすぎて人気がないの。一緒にお仕事をさせていただく機会のある神様だからこそ、苦労が知れて敬遠されているわ。親兄弟からも止められるような職場には誰も就きたくはないでしょう?」
2億年なんて気の長い話の中に在りながら、それでも拒絶される過酷労働があるだなんて、世知辛いにもほどがあった。




