天使の世界8
「自己紹介もしてもらったところ悪いんだけど、正直なにから聞いたらいいのかも分からなくて」
「そうかもしれませんね。転生者ならばそれも――・・・そもそも転生者についての説明も必要でしょうね。なにから話すのが一番わかりやすいかは、やはり天使についてから始めるのがいいでしょうか。丁度、サンプルもあるわけですから」
戸惑う逸人へ寄り添うルールイールは、ようやく立ち上がったヤンキエルへ視線を向けながら言った。
「アタシになにさせようってんだ? お前になにを言われたって、アタシは自分の格を落とすようなことはしねぇからな‼」
「そういうのなら、まずはそのだらしのない胸を戻したらどう? あなたが目指すところとも違うはずでしょうに」
「クッ! まあ、動きにくいしな・・・」
逸人からは少し不思議なやり取りに見えた。
目指すところ、つまり目標を知っているような関係には見えていなかったからだ。
しかし、ヤンキエルは言われるがまま諭されるように体型を戻した。
「と――このように、天使は体型を任意で変更できるのは見てもらった通り。同じように性別や顔の作り、天使らしさとも言える光輪や翼もある程度なら好きに変えられるの。これは天使が誕生した時の背景に起因しているのだけど、先に断っておくとこんな風に身体を弄り回すことは基本的にないから、そこまで気にする必要はないと言えるでしょう」
「・・・そうなの?」
「ええ、彼女を最初に見てしまったための弊害になります。よっぽどの理由でも無ければ、自分という存在を歪めようなどとは思いません。それは学園にも関係することなので、混乱しないために説明は後回しにしますね」
理路整然としたルールイールの口調はすんなりと逸人の信用を得る。
「それじゃ天使の誕生っていうのは?」
「そうですね。下界に伝わっている内容がどういうものかわかりませんが、ここ天界での認識では”人間を模して創られた天の御使い”こそが天使になります」
「人間を模して・・・?」
「意外ですか?」
驚いた逸人は、意外かと聞かれて言葉に詰まった。
驚きの原因が瞬時には突き止められなかったからだ。
神話についてはそれなりに聞いたことはある。
日本神話だけでなく、ギリシャ神話だの北欧神話だの、仏教やキリスト教やイスラム教やユダヤ教――他にも多数。
これは日本に古くから根付くなんにでも神様が宿るという考え方と漫画やゲームをはじめとしたオタク文化のおかげだろう。
なにを信じてもいいし、なにも信じなくてもいいという懐の広さが、逆に魔境の如く情報の氾濫を呼んだ結果だ。
それらを以ってして尚、天使という存在には詳しくなかった。
あくまでもイメージだが、死者を天国へ連れて行ってくれるような・・・本当にその程度の認識と知識しかなく。
それさえ、死神の仕事なんじゃないのか? と疑問に思ってしまうレベル。
だからこそ。人間の真似をして作られたことや、なんなら人間より後に創られていたと知らされても、そうだったんだ! という驚きにしかならず。
故に、なにが意外で驚いたと言っていいのかに悩んだ。
明確な言葉が出せるほど、天使のことなど知らなかったのだから。
「おい! アタシを立たせたままにするな! っつーか、なんにもねぇなら座って話せよ‼」
言葉に詰まった逸人を気にかけ、どうしたのかと聞こうとしたルールイールを牽制するように、手持無沙汰になっていたヤンキエルが騒ぐ。
「座ってもいいのですが、折角ですからその前に見てもらいましょう」
そう言って仕切り直すようにヤンキエルを指す。
「彼女を見てください。パッと見てわかる通り、光輪も翼もありませんよね。あなたから見れば、人間の女性のように見えると思います」
言われるがまま、逸人はヤンキエルを見つめる。
見つめられた方は恥ずかしそうに身をよじるが、確かに光輪も翼も見当たらないことを、この瞬間に気付いた。




