天使の世界6
図書室。
なんの変哲もない、よくある書物を詰め込んだ部屋。
なのだが・・・逸人の目線からは1点だけ、普通と違う部分があった。
書架の全長だ。
高くても精々2Mかそこらが一般的だと思うが、この図書室の書架は天井までみっちりと本を咥え込み、そそり立つ。
しかもだ。天井の高さが3Mは優に超えてそうなほど高いのだ。
そんな状況で数多の背表紙に見下ろされる図は、真っ先に落本による怪我を想起させるが、ママエルの何気ない言葉が蘇る。
『下界と違って地震はない』
この光景はそれを証明するかのような存在だった。
そして、見上げればたった1人が逸人に、天使と人間の違いを見せつけていた。
天井近くで本を選んでいるのだ。
飛行能力など、人にはあらず。
現実の認識を更新する機会をくれる。
時を同じくして、未だ名乗らぬ肩に組みついた女の子もその存在に気付く。
「げ・・・面倒なのが居やがる」
そう短く吐き捨てると、
「こっちだ!」
強引に逸人を操って部屋の奥へ。
規則的に立ち並ぶ書架の足元を縫い、奥まった場所に設置された机と椅子へ腰を下ろす両者。
逸人としては対面が良かったが、なにせ肩を組まれていたせいであえなく、横並びでの着席となる。
「あんまりデッカい声は出すなよ?」
「そりゃぁ、まぁ・・・図書室だからね」
「そうじゃねぇけど、それでいい」
女の子は軽く周囲を警戒する様子を見せるが、直ぐに会話へ前のめりになる。
「それで、なんか聞きたいことはあるか? なんでも答えてやるぜ!」
「あー・・・っと、それじゃあ――男だと告白を断っちゃいけないみたいなのはなんで?」
「別に断っちゃいけねぇわけじゃねぇよ。あんまり断る意味がねぇだけだ。あー、お前は日本で暮らしてた・・・んでいいよな?」
「そうだね。日本は知ってるんだ?」
「当たり前だろ? ここは日本の担当区画だからな。そうなると、えー結婚と比較してだな? 天界だと一夫多妻が基本なんだよ。それが普通で、妻は何人いてもおかしくないどころか、力の強い妻が居ることが一種のステータスになるっつーか、そういう妻を娶ることでもっとモテるようになるっつーか、まあデメリットがねぇんだよ」
「いやでも経済的なこととか、その妻同士? での関係とか、あとから問題が出てくるんじゃないの?」
「下界とはその辺りもかなり違っててな。天界での婚姻ってのは新しい家を建てるようなもんなんだよ。そこに住む全員が家のために働くし、男の――つまりお前の言うことが絶対になるんだ。だから娶った順番とか、子供の有無とかは関係なくて、お前の気分次第でどうにでも出来るってことだ」
「えぇ⁉ それで上手くやっていけるの⁉ 急に捨てられたりとか・・・」
「もちろん、そういうこともある。ただし、理由も無しに女を捨てようもんなら、周りからの評価はどん底に落ちるし、捨てた女が堕天しようもんなら神罰が下るから、あんまりそういうことはねぇな」
「・・・神罰?」
「よくあるのは落雷だな。避けられにくいし」
「ああ、わかりやすい」
地上にも浸透した神罰のイメージだ。
天使であっても雷は避けられないのかと納得する人間あがり。
「あれ? でもそれだけだとメリットも無いような?」
「なんでだよ‼ お前は女に興味がねぇのか⁉ それとも、アタシの身体が貧相だからか⁉」
大声は出さないよう念押しした側が騒ぐ。
慌てて宥めようと否定する男。
「別にその―――・・・、君の身体がどうとかじゃなくて!」
「~~ッと! ワリィ、まだ名乗ってもなかったか。アタシはヤンキエル! お前の女にしてくれるなら何て呼んでくれたっていいし、要望があればどんなことにも応えるぜ‼ 例えば体型や胸だって―――」
そう言いながら、ヤンキエルと名乗った女の子は自身の胸をそれぞれの掌で掴むと、信じられない光景を作り出す。
逸人の目の前で、胸の大きさを盛り始めたのだ。




