ex.4 あなたの瞳の色を知りたい
この国の3大新聞社。
彼らはこぞってこう訴えかける。
「最強ババアは強欲だ。たった一人の術師に、莫大な血税が費やされている」
日々、紙面を飾るのは、かの術師の傲慢さ。国軍と足並み揃えぬ不協和音。貴族院も王すらも、取るに足らないという不遜な態度。
幼い頃から、大人たちが。夜会で殿方たちが、当然のように話すものだから、貴族令嬢のカサブランカも、「最強ババア」とはそのようなものだと思うはずが――
「けしからんな」
伯爵家当主の父は、少し違っていた。
「まったく、外を知らん奴らは呑気なものだ」
深い山で囲まれたこの国は、国境におそろしい蛇が蔓延ることもあり。千年前から鎖国状態だ。
「どれだけ危うい状態か、知りもせん」
憤る父は、この国唯一の"外"とのつながりを持つ、大きな港街の領主だ。
海向こうからもたらされる品々。先々代はそれらに危機感を覚え、危険を承知で海を渡った交易を拡大してきた。
「なんとか最低限だ。これ以上、世界の進歩に置き去りにされてはかなわんぞ」
そんな父だからこそ、国防への関心は、人一倍だったのだ。
ある日のこと。
ゆっくりとデザートを楽しんだカサブランカは、ナプキンを机に置いた。
家族はすでに席を立った後。
がらんとした食堂で、メイドたちが静かに食器を片付けている。
ふと、上座の席に残された紙束が気になった。
『父さん。これ、なかなか良く書けてますよ』
『聞かない新聞社だな。ほう、これは……』
食事中、長兄と父がのぞき込んでいた新聞だ。
普段、新聞などは読まないのだが。
その時はなんとなく、気になって手に取ったのだ。
「最強ババアの……まあ!」
思わず感嘆の声が漏れて、慌てて口元を押さえた。
「お嬢様?」
メイドが怪訝そうにこちらを見たので、慌てて首を横に振るった。
そのまま紙束を掴んで自室へ戻る。
ベッドの上で、大きく広げた。
強い、風を感じた。
真っ白な髪が揺れている。
森の中から見上げたのだろうか。
傾ぐ木々のさらに上空。
「格好……良い、ですわ」
ゆっくりと、ひとりごちた。
紙面の皺を丁寧に伸ばす。モノクロの向こうに見える"色"に思いを馳せた。
黒い靄を撒き散らす蛇を前に。
鋭く見据える、老婆の瞳。
「お色は、何色なんでしょう……」
見てみたい。
彼女の瞳を、この目で直に。
強い衝動がいつまでも、自分のなかに燻り続けた。
以来、民報「ザ・トレンド」に、"彼女"の姿を探すことが、カサブランカの日課となった。
お読みいただきありがとうございました。
短編「最強ババアのティータイム」(ルシニウスとシティの出会い編)で登場した、ルシニウスがシティに初めて見せた写真のお話でした。
ルシニウスが撮る「最高に格好良い最強ババア」が、ひとりの少女に影響を与えました。
それではまた来週、土曜の更新予定です(^^)
(もしかしたら明日もう1話、小話を載せるかもしれません)




