1. ようこそ魔女の小屋へ――黒人形たちがお迎えします
【重要なお知らせ】
新章「新たな弟子編」について、
公開後、旧作へのアクセスが多く、「新章はどこですか?」とのお声をいただきました。
そのため、より分かりやすくお読みいただけるよう、
こちら側の「最強ババアのティータイム」に「新たな弟子編」を統合することにいたしました。
引き続き、本作にて物語をお楽しみいただけますと幸いです。
「シティ! そろそろ休憩――おおっと」
扉を開いた瞬間、目の前をほうきが掠めた。
慌ててのけぞると、壁に寄せられた机や椅子、引き出しを外されたタンスに、開け放たれた窓。
雑然とした部屋の中を、8体の黒い人型が忙しなく動き回っている。
「ハチ、掃除中?」
ルシニウス青年は、人型の1体に声をかけた。
振り返った黒人形は、陽気にハタキを振り回しながら頷いている。
玄関から中を覗き込む青年の隣を、どいたと言わんばかりに大箱を抱えた黒人形が通り抜けた。
「おっと、ごめんさ。ねえ、シティはいる?」
あいにくお目当ての人物は見当たらない。
(寝室かな)
そう思い、一歩踏み込むルシニウスの前に、小さな影が立ちふさがった。
「とまれ、シンニューシャ!」
先の8体に隠れて気づかなかった、9体目の黒い人型。――ルシニウスの腰ほどまでの高さしかない、他よりずいぶんと小さな黒人形だ。
「うわ! 初めて見る子なんさ?」
威嚇のつもりか、短い両手をパタパタ振り回すさまに、思わず抱き上げてしまう。
「もしかして、キュウちゃん?」
まじまじと観察するルシニウスの手から逃れようと、黒人形はジタバタした。
「この、ブレイモノ! はなせヘンタイ! あと、主じゃないくせに名前でよぶな!」
なんとか身を捩って脱出した黒人形――キュウちゃんは、ゼエゼエしながら怒っている。
(すごい。布人形なのに怒ったり疲れたり……。さすがシティの使い魔さ!)
感心するルシニウスは、ポカポカ殴ってくるキュウちゃんを気に留めず、そのまま奥の部屋へと進んだ。
黒人形たちが働く間を抜けていく。
カーペットが剥がされたリビングの床を、丁寧に磨く者。
盛大にハタキを振り回して飾り物を壊した奴が、別の人形に叱られていた。
(こんなに沢山、動かしてるのは初めて見たんさぁ)
前進を止めようと腰にしがみつくキュウちゃんを、ずるずる引きずりながら感心する。
複数の人形を同時に、精細にコントロールするのは難しい。そう聞いているだけに、彼女の魔術はまた一歩、成長しているようだ。
それが自分のことのように誇らしかった。
「ああ、ダメなのに!」
キュウちゃんの必死の抵抗も虚しく、ルシニウスは奥の扉にたどり着いた。
そっと、扉をノックする。
「シティ、今いい?」
一瞬の沈黙の後、
「え? ルン!? やだ、もうそんな時間――!」
ドタバタひっくり返す音と一緒に聞こえてきたのは。老婆のしわがれ声ではなく、透き通った少女のもの。
「あ……まだ着替えてなかったんさ?」
思わず上ずりそうになる声を抑えて、ルシニウスは遠慮がちに尋ねてみた。
カチャリ。扉が小さく音を立てた。
ルシニウスの鼓動が速くなる。
ドアノブが回り、ほんの少し隙間が開いて、
白い髪がきらめいた。
そこから青い瞳の少女が――
「シティさーん」
のんびりとした元気な声が、魔女の小屋中に響き渡った。
バタン。
開きかけた扉が閉じられた。
ルシニウス青年は、止まった息を大きく吐いた。波立つ心を鎮め、ゆっくりと下手人の方に向き直る。
「あら、先輩。どうかしまして?」
振り返った先には明るい橙色が印象的な、ワンピーススカートのお嬢さん。
閉じられたドアと青年を見比べ、不思議そうにしていたが、彼女はにこやかにこう告げた。
「シティさん! 最強ババアの弟子、カサブランカが参りましたわ!」




