第10話 月面軍
「ほんとに何やってんだよお前・・・」
「俺にも何が何だか」
俺はおやっさんに縋る。
「保護者が許可しなければ無効になるとかないんですかね」
「総督特権は個人の権利を著しく制限する。それは無理だろうな」
「なんでそんな物騒な権限が有るんですか・・・」
「最近出来たんだよ。地球のとの仲が悪くなればなるほど俺たちに不利な法律が出来やがる」
「それ、自縄自縛って言いませんかね?」
ソラツグはため息をつく。
そこに一人の男が入ってきた。黒服のガタイのいい男だ。おそらく軍人だろう。
「ミツハシという男はいるか?」
「ミツハシは俺だが。俺に何の用だ?」
黒服の男はミツハシに向き、
「アマノ=ソラツグの保護者はお前だろう?お前に召集令が出ている」
「何だって!」
「アマノが未成年のまま軍属になるのに反対意見も多くてな。それなら保護者も一緒に、という事らしい」
「まいったな・・・」
黒服の男が続ける。
「どの道MTが大量に破損すればメカニックは総動員される。それが早まったと考えればいい」
「それはそうだが」
「では伝えたぞ。集合日と集合場所はそこに書いてある。遅れるな」
黒服の男はそう言うと去って行った。
「おやっさん。すみません。俺のせいで・・・」
「あいつも言っていただろ、MTが大量に破損すれば総動員される、って。お前のせいじゃない」
おやっさんは皆を呼ぶ。
「ケイト、ハリー、マック、マーカー。ちょっと集まれ。今後の方針を話し合う」
その日は今後の事について話し合い、そこで解散した。
後日、学校。
「ソラツグ!軍に入るって本当か!?」
「せっかく仲良くなれたのにそりゃないぜ」
「えーっ!俺は羨ましいけどな!なんてったって戦場の花形、MTに乗れるんだぜ?中等生で!」
普段は離れて固まって話してる女子たちも近づいてくる。
「ソラツグ君元気でね」
「男ならガツーンとやっちゃいなさい!」
「戦場って危険なんでしょ?死なないでね」
「物騒な事言わない!」
そしてツキノ=カグヤは。
「絶対に無理はしないこと。危険だと思ったら引きなさい」
「え?あ、うん」
「もう、ツキノさんったら。それってまるで戦場の先輩のセリフよ?」
「ふふっ、そうね」
そして女子は去っていく。
俺、戦場に出るんだ・・・。
今更ながらソラツグは実感し始めた。
その日の夕、商業区。
俺は商店街近くの公園に来ていた。
以前、ここでツキノ=カグヤと話したことを思い出していたのだ。
ソラツグはベンチに座り、天井に映る星を見ていた。
すると、
「また会ったわね」
「ツキノさん・・・」
カグヤはソラツグの隣に座る。
俺は尋ねる。
「どうしてここに?」
「買い物の帰りにあなたを見かけたの。気になってこっちに来たらあなたが居たってわけ」
「そう・・・」
カグヤはソラツグを見据える。
「迷ってるの?」
「・・・正直、実感が無いんだ。昨日まで一般人だった俺が軍人だなんて」
「迷うな、とは言わないわ。誰だって悩みはあるもの。ただそれを戦場まで引きずっていくと死ぬわよ」
ソラツグはばっ、とカグヤを見る。
「MTのテロから助けてくれたロボットに乗っていたのはツキノさんだったのか?」
「どうしてそう思うの?」
「あのロボットのカラーリングがツキノさんの髪、服、髪飾りの色と同じなんだよ」
「ふふっ。偶然よ」
そう微笑むとカグヤは立ち上がり、歩み出す。
「生き残りなさい」
その言葉だけを残して。
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