表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法の終わる空  作者: 国産狂人
空が変わり始める

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
40/60

弱くなる灯り

 異邦人の仮説――などという呼ばれ方をされた時、最初に浮かんだ感情は微妙な居心地の悪さだった。


 仮説と言えば聞こえはいいが、実際のところ根拠はまだ弱い。空にある帯と魔素流量の変動、その発生時期が近いという程度だ。因果関係を示す証拠もなければ、直接的な観測データも足りない。研究者として冷静に考えれば、飛躍しすぎている。


 ただ、同時に別の感覚もあった。


 誰も説明できていない。それが大きい。


 学院内では依然として議論が続いていた。設備老朽化説、局所的な地脈異常説、測定誤差説。どれも一部は説明できる。だが、広域同時発生という現実を前にすると、どこか決定打に欠ける。しかも時間が経つほど、不調は確実に増えていた。


 そして、それは学院の中だけの話ではなくなり始めていた。


 数日後、市場の空気は明らかに変わる。


 最初は噂だった。


 最近灯りが暗い。暖房が弱い。保冷箱の効きが悪い。そんな程度の話で済んでいたものが、今では露店同士の雑談でも頻繁に出るようになっている。


 歩いているだけで断片が耳に入る。


 港町じゃ荷運び術式が止まった。

 北では暖房不足で宿代が上がった。

 学院市の街灯、また消えたらしい。


 誰も大声では話さない。ただ、声の調子だけが少し低い。不安というものは、まだ確信が持てない時ほど広がり方が厄介だった。


 地球でも同じだ。災害直前や供給不安の時、人は最初に「気のせい」で済ませようとする。次に噂が増え、最後にようやく現実だと認め始める。


 今は、その中間くらいに見えた。


 学院を出た帰り道、ふと違和感があって足を止める。


 街灯だった。


 壊れてはいない、点いている。ただ、暗い。


 青白かったはずの光が少し鈍く、頼りない。まるで燃料切れのランタンみたいに弱々しい。


 一本だけではなく、通り沿いを見渡すと、何本か同じ状態のものが混ざっている。


 完全停止ではない。ただ、明らかに出力が落ちている。


 そこが逆に嫌だった。


 壊れているなら修理できる、交換もできる、原因も探しやすい。


 だが、“全体的に弱っている”という現象は厄介だ。地球でも、電力供給そのものが不安定になった時の症状に近い。設備は正常なのに、全体がどこか頼りない。


 気づけば足を止め、街灯を観察していた。


 術式自体に異常は見えないし、構造も壊れていない。それなのに光量だけが足りない。


 自然と、例の古い測定器を持ち出したくなる。


「また仕事モード」


 横から声が落ちる。


 紺色の外套だった。


 いつの間にか隣に居る。相変わらず足音がない。


「帰りですか」


「呼びに来た」


 短い返事だった。


「学院、少し面倒」


 嫌な予感しかしない。研究者の言う“少し面倒”は、大抵面倒では済まない。


「何がです?」


 少し間が空く。


 そして、いつもより少し真面目な声で言った。


「他の街、来る」


 意味がわからず顔を上げる。


「来る?」


「研究者」


 そこで理解する。学院市だけでは済まなくなったのだ。


 港町、北方都市、商業都市。各地で同じ異常が起きている以上、それぞれの学院や研究機関も動き始める。そして、原因が掴めないなら情報交換になる。


 つまり。


 話が、大きくなっている。


 研究室の問題ではない。街の問題でもない。都市単位の異常が、広域現象として認識され始める。


 そしてその中心に、魔素流量変化という新しい仮説がある。正直、あまり良い予感はしなかった。


 理論が揺らぐ時ほど、人は協力するより先に責任の押し付け合いを始める。元の世界でも、大規模トラブルほど組織間の政治が増えた。


 それでも、少しだけ別の感覚もある。


 もし本当に世界規模なら。

 もし本当に空と関係があるなら。

 一都市の設備修理だけでは済まない。


 そして、その時こそ仮説が必要になる。


 窓の外では、街灯がまた少しだけ弱く瞬いていた。まるで街そのものが、静かに体力を失い始めているみたいだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ