表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法の終わる空  作者: 国産狂人
魔法の理屈

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
32/60

使えないのではなく

 学院地下の倉庫は、予想通りというべきか、あまり整理が行き届いていなかった。


 研究機関というものは、世界が違っても古い設備を捨てないらしい。壊れた測定器、用途のわからない金属器具、年代不明の記録箱。壁際には使われなくなったらしい術式板まで積まれている。必要だから残したのか、誰も処分を決められなかっただけなのか、その辺りは判別しづらかった。ただ、少なくとも“今は使われていない物置”としての空気だけは万国共通だった。


 地下特有の冷えた空気の中、紺色の外套は迷いなく奥へ進んでいく。慣れているのだろう。途中で何度か積まれた木箱を避けながら、埃の積もった棚を確認し始めた。


「昔の研究室、よく来た」


 ぽつりと言う。


「片付け、押し付けられてた」


 少しだけ納得する。


 研究室というものは、立場が弱い人間ほど雑務が増える。元の世界でも、設備管理や在庫整理は若手へ回りがちだった。世界が違っても、研究組織の空気はあまり変わらないらしい。


 主任は露骨に嫌そうな顔をしながら箱を漁っていた。


「こんな所にあるのか、本当に」


「ある」


 短い返答だった。


「古いから、誰も使わないだけ」


 少しして、ようやく目的の物が見つかったらしい。埃を被った木箱を引きずり出し、中から細長い金属器具を取り出す。見た目は現行の測定器よりずっと粗雑だった。青白い石が露出しており、表面へ刻まれた術式も随分単純に見える。


「これ?」


「流れ測る型」


 差し出され、少し眺める。


 当然ながら構造は理解できない。ただ、現行品より情報量が少ない代わりに、測っている対象が限定されている印象を受けた。地球でも、万能測定器より特定用途向けの方が精度が高いことは珍しくない。


 主任が術式部分を軽く確認しながら呟く。


「今の測定器は濃度中心だったな」


「効率優先」


 短い補足が入る。


「昔は流れも見る」


 そこで少し引っかかる。


 流れ、供給、変化。


 もし魔素が一定量存在していても、流れ方が変われば設備は不安定になるかもしれない。川に例えればわかりやすい。水量が同じでも流速が変われば水車は止まる。パイプの圧力が乱れれば設備は動かない。


 そして、今の魔導具の止まり方はどこか似ていた。


 壊れているわけではない。動かす力だけが足りない。そう考えると、少しだけ理屈が繋がり始める。


「試してみます?」


 自然と口へ出る。


 主任が即座に頷いた。


 嫌な予感がした。研究者が迷いなく動き始める時というのは、大抵、帰る時間が遅くなる。


 案の定だった。


 地下から測定器を運び出し、研究室の隅で急ごしらえの確認作業が始まる。現行設備との比較、術式調整、測定対象の確認。途中で何度か研究員が巻き込まれ、気づけば小さな共同作業みたいな空気になっていた。


 その間、少し別のことが気になっていた。


 自分自身のことだ。


 魔法が使えない。


 ずっとそう思ってきた。学院でもそう扱われているし、自分でもそう認識している。


 だが、よく考えれば妙だった。術式断線には反応するし、修理もできる。繋がっていない構造へ干渉できる。


 完全に“使えない”人間なら、そもそも何も起きないはずだった。


 では、自分は何なのか。


 使えないのではなく。


 ――使い方が違うだけではないのか。


 そんな考えが頭を過ぎる。


 地球でも似た話はある。同じ装置でも用途が違えば評価が変わる。発電機が壊れているのではなく、変圧器として動いているだけかもしれない。道具は目的次第で意味が変わる。


 もし魔法も同じなら。


 そう考え始めたところで、研究室の空気が少し変わった。


「反応した」


 主任の声だった。


 測定器の青白い石が、弱く脈打っている。


 そして現行測定器とは違う、妙な波形が出始めていた。


 一定ではない。


 揺れている。


 ゆっくり。だが確実に。


 魔素は、一定ではなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ