表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法の終わる空  作者: 国産狂人
工房と星図

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/35

違う星系

 街灯が消え始めたという報せは、その場にいた研究員たちの空気を一気に変えた。


 数日前までなら「局所的な不具合」で済んでいた話が、今では誰の顔にも少しずつ現実味を帯び始めている。生活用設備だけではない。工房設備、輸送補助、保冷機構まで不調が広がっている以上、これは単なる偶然では済まない。研究員たちは慌ただしく資料を抱え、現地確認へ向かう者、測定器を持ち出す者、記録の照合を始める者へ分かれていった。


 ただ、その中で妙に落ち着いている人間が一人いた。


 紺色の外套は、窓の外を眺めたあと、机へ散らばった資料へ視線を戻している。普通なら慌てても良さそうな状況なのに、妙な静けさがある。恐らく、頭の中では既に別の計算が始まっているのだろう。研究者というものは、問題が大きくなるほど逆に冷静になる種類が居る。


「行かないんですか」


 自然と問いかける。


「行っても、見るだけ」


 短い返答だった。


「今ほしいの、理由」


 言っていることはわかる。壊れた現場を見るだけなら修理屋でもできる。問題は、なぜ起きているのかだ。


 研究棟の騒がしさを横目に見ながら、自然と机へ残った資料へ視線が戻る。止まった魔導具の一覧、年代、使用用途、設置場所。相変わらず共通点は見えない。ただ、新型ほど止まりやすいという傾向だけは、少しずつ無視できない程度に揃い始めていた。


 そこがどうしても引っかかる。


 技術というものは、普通なら改善される。地球でも新型ほど効率が良く、消費エネルギーが減り、安定性が増す。もちろん失敗作もあるが、世代が進むほど性能は基本的に上がる。


 それなのに、今回は逆だった。新しい魔導具ほど不安定で、古い設備ほど比較的動いている。


 まるで。


 ――何か前提条件が変わった世界へ、最新技術だけが適応できなくなっているみたいだ。


 そこまで考えて、ふと視線が止まる。


 前提条件、環境、供給。


 昨日から頭の隅に引っ掛かり続けているものがある。


 空


 夜ごと観測していた、あの靄のような帯。


 もちろん現時点では結びつけるには飛躍が大きすぎる。街灯故障と天体現象など、普通に考えれば関係があるはずがない。ただ、研究というものは、説明できない違和感を雑に捨てた時ほど後から痛い目を見る。


 気づけば、小さくため息をついていた。


「また変なこと考えてる」


 横から声が落ちる。


 資料を抱えたまま、眠そうな目でこちらを見ている。


「顔に出てます?」


「かなり」


 少し迷う。


 言うべきか。まだ根拠はない。ただ、話すなら研究者の方が早い。


「空、見てるんです」


 数秒、沈黙が落ちた。


「趣味?」


「趣味です」


「今その話?」


 正しい反応だった。自分でもそう思う。街の設備が止まり始めている最中に星の話を始めるのは、どう考えても順番がおかしい。


 それでも続ける。


「星の位置が違うんです」


 そこでようやく表情が少し動く。興味の方向が変わったらしい。


「違う?」


「元いた場所と、です」


 夜空を思い出しながら言葉を選ぶ。


 星座がない。天の川に似た構造はあるが配置が違う。惑星らしき天体も動き方が違う。最初は季節や緯度を疑った。だが、観測を続けるほど説明が難しくなる。


「ここ、少なくとも地球じゃない」


 口にしてから、少し妙な気分になる。頭では理解していた。魔法があり、知らない文明があり、見たことのない建築がある。別世界だと認識していたつもりだった。


 それでも、“別の星系”という言葉に変換すると急に現実味が増す。


 帰れない距離、知らない空、文明ごと違う場所。


 それが少しだけ胸に重かった。ただ、返ってきた言葉は意外だった。


「面白い」


 嫌な予感しかしない。研究者のその反応は、大抵ろくな方向へ進まない。


「観測記録、見せて」


 即答だった。


「あと、その空の違和感も」


 そして少し間を置き、珍しく真面目な声で続ける。


「今、常識疑うの大事かもしれない」


 研究棟の外では、また街灯がひとつ消えた。生活の不便は、もう“気のせい”で済む段階を過ぎ始めている。


 そしてこちらもまた、別の違和感を無視できなくなり始めていた。空の異常と地上の不調。その二つが本当に無関係なのか、少しずつ疑い始めている自分がいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ