表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法の終わる空  作者: 国産狂人
工房と星図

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
24/60

規格という発想

 街灯の前には、思っていたより人が集まっていた。


 壊れたと言っても、煙が出ているわけではない。爆発したわけでも、建物が崩れたわけでもない。ただ光が弱くなり、あるいは消えているだけだ。それでも足を止める人が多いのは、それが“当たり前に動くもの”だからだろう。地球でも停電が起きた時、人は理由もなく外へ出て様子を見始める。生活の一部だったものが急に止まる時、人は不思議と落ち着きを失う。


 通りへ立つ街灯は、青白い鉱石を中心に金属枠と術式が組み込まれた構造だった。以前から何度か目にしているが、近くで見るほど機械に近い印象を受ける。魔法という言葉のせいで神秘的に見えるが、実態はかなり工学的だった。動力源こそ未知だが、制御系があり、構造があり、役割分担がある。少なくとも「願えば動く奇跡」ではない。


 ただ、今回の違和感はそこではない。壊れているように見えないのだ。


 術式は焼けていない。外装も傷んでいない。接続部に断裂もない。それなのに、光だけが弱い。あるいは、急に止まる。


 近くにいた商人らしい男へ声を掛ける。


「いつからです?」


「昨日の夜くらいだな」


 男は街灯を見上げながら肩を竦める。


「最初は一本だけだったんだが、朝になったら増えてた。店閉める頃には裏通りも暗いって話だ」


 裏通り。つまり中央区画だけではない。


 少し気になる。


「修理屋は?」


「学院が見てるらしい」


 なるほど、と少し納得する。


 つまり問題は既に学院へ共有されている。そして恐らく、まだ原因は見つかっていない。原因がわかっていれば、もっと空気は落ち着いているはずだ。


 街灯へ近づき、少し離れた位置から観察する。


 勝手に触れるのはやめた。公共設備へ何かして問題になれば厄介だし、そもそも今の自分は何に反応するのか完全に理解できていない。修理能力なのか、接続への干渉なのか、それとも別の何かなのか。下手に試すには街中という環境が悪すぎた。


 ただ、観察だけでも妙なことに気づく。状態が揃っていない。


 完全停止している物。弱く光る物。普通に動いている物。同じ街灯のはずなのに、症状へ明確な差がある。


 そこが引っかかった。普通なら同じように壊れる。


 同じ設備なら、同じ原因で止まる方が自然だ。なのにばらつきがある。設置時期か、製造工房か、使用年数か、あるいは別の条件か。考え始めると分類項目が増えていく。


 研究者の悪い癖だった。


 その日の夜、古物屋へ戻ると、自然と紙を広げていた。


 市場周辺、中央区画、裏通り。街灯の位置を書き込み、見えた状態を簡単に記録する。完全停止、弱点灯、正常。見た順番まで思い出しながら書き留めていると、途中で店主が呆れた顔をした。


「また始まったな」


 視線の先には散らばる紙。


 横には観測記録。


 机には筆記具試作。


 外から見れば、何をしているのかわからない光景だったと思う。


「仕事です」


「空見て、街灯見て、紙書いて?」


「原因があるはずなので」


 便利なものほど、急に壊れる時は理由がある。


 元の世界でもそうだった。設備停止には必ず兆候がある。供給不足、負荷、環境変化、設計上の癖。問題は突然起きるように見えて、実際には静かに積み重なっていることが多い。


 そして、理由があるなら再現条件もある。ただ、今回の厄介さは魔法という未知技術だった。


 学院では“魔素濃度は正常”という前提で話が進んでいる。測定器も問題なし。だから供給異常ではないという結論だ。


 本当にそうなのか。何となく引っかかる。


 地球でも、測定器が正しいという前提自体が間違っていることは珍しくなかった。基準値が古い。測り方が間違っている。環境変化へ追いついていない。そういう話はいくらでもある。


 もちろん、まだ飛躍しすぎだ。ただ、疑問だけは残る。


 そして翌日、学院へ向かう前に工房候補へ立ち寄った。


 気になっていたのは筆記具だった。


 追加注文は来ている。売れる見込みもある。ただ、一人では作れない。だからこそ、昨日会った木工職人との話を進める必要があった。


 工房へ入ると、既に作業は始まっていた。


 机の上には同じ長さへ揃えられた木片が並んでいる。昨日より明らかに均一だった。職人は無言のまま何かを削っていたが、試作品の形状を分解しながら理解しようとしているのが見て取れる。


「早いですね」


「考え変わらんうちにな」


 悪くない返答だった。試作品を前に、木片へ溝を刻みながら寸法を確認している。感覚だけで作っているわけではないらしい。


 そこで自然と口に出た。


「基準を決めましょう」


 男の手が少し止まる。


「同じ物を同じ品質で作るためのルールです。寸法、穴の太さ、削り幅。誰が作っても同じになる仕組みを先に作る」


 職人はしばらく黙ったまま木片を見ていた。反発されるかと思った。


 職人というものは、自分の感覚へ誇りを持っている。元の世界でも、熟練工ほど“手の感覚”を軽視されることを嫌う。


 ただ、しばらくして返ってきたのは意外な言葉だった。


「型を作れってことか」


 少し驚く。


 言葉は違うが、本質は近い。


 規格化、治具、量産。


 工業化前夜の世界にも、ちゃんと繋がる考え方はあるらしい。


 工房を持つ。修理を回す。筆記具を量産する。そして、もし街の魔導具異常が本格化するなら、一人で出来る範囲などすぐ限界が来る。


 だからこそ、“人が増えても回る仕組み”を作る必要があった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ