第20話 初めての闇ギルド訪問
「ここだよ!」
「ほう。ここか」
一見すると、ガラの悪そうな酒場といった雰囲気の建物だ。
だが、確かに建物の中には――特に二階より上には強者の気配を纏った者がそれなりに点在している。一階はカモフラージュなのだろう。もしくは、本当にただお酒を飲みに来た連中がたむろする場所なのか。
「助かった。では、これが駄賃だ」
「やくそくまもってくれた!」
「ああ、ありが……。……えっ!」
子供二人に金を渡すと、何故か目を見開かれた。小さな子供の方は、うわあっと目をきらきら輝かせている。
何だ。いつも金を盗んで生活をしているのならば、金くらい見たことがあるだろうに。
まさか。
「足りないとでも言うか?」
「ち、違う!」
「こんなにきれいなおかね、はじめてみた!」
「……何?」
我輩が渡したのは、銀貨だ。鉄、銅、銀、金、白銀の硬貨に紙幣が流通していると、村から出る前にルドルに教えてもらった。
単位は全て「マルク」。
鉄100マルクで銅1マルク。銅100マルクで銀1マルク。銀100マルクで金1マルク。金100マルクで白銀1マルクと言うらしい。単純ではあるが、数えるのが少し面倒だ。ちなみに、鉄はあまり使わないとか。
紙幣については、白銀10マルクで紙幣1マルクと数えるらしい。面倒な時は、銀〇枚という言い方をするとか。というより、大体はそれで通じると言うのだから驚きだ。
ならば、マルクという単位を省けば良いのではと我輩などは考えてしまうが、商売――特に契約では必要な事柄なのだそうだ。つくづく人間の世界は面倒である。
村人の収入は、大体金1枚で大金持ちだそうだ。
ただ、都市に行くとピンキリだそうで、銀10枚から紙幣まで給料の幅は広いらしい。我輩からすると、どれだけ価値が高いのかよく分からない。
露店に並んでいる買い食いの物価からすると、銅5~15枚あたりが多かったので、銅が平均を担っているということくらいか。食材だけだともっと安いものもあったが、露店の食事は加工費の問題があるのであろう。
我輩が子供二人に渡したのは、銀2枚。
確かにただ道案内をしてもらっただけでは破格かもしれないが、買い食いをするのであれば、一人あたりの食事平均15回分くらいだ。一日二回として、一週間くらいしか持たない。
「……ミストルは、太っ腹なのか何なのか。よく分からん奴だなあ」
「高いのか?」
「道案内の距離が短いからね。もっと長いなら別だが、これくらいだと……普通は銅数枚渡して終わりにする奴が多いかもしれないなあ」
高過ぎたらしい。
だが、銅数枚では食事一回分あるか無いかだ。それでは、彼らは飢えるしかないだろう。ましてや、彼らの様に仕事にありつくのが難しそうなら尚更だ。
人の世界は、大変だ。我輩も村からたらふく持ち込んだ金を使いきらない様に注意せねばならない。村長達がかなり貯金をしていたおかげで、助かった。
「まあ、良い。その金はとっておけ」
「……でも、にいちゃん」
「気が引けるなら、普段世話になっている子供達にも食べさせてやればよかろう。……お前達、親はいないのだろう?」
「え」
「なんで」
「ふむ。お前達と同じ様な気配をした人間がいなかったのでな」
ざっとこの裏町の人間の気配を探ったが、親子でいる者は少ない様だ。親戚ならともかく、親子となると気配が似ている。故にこの二人の両親がどこかにいるのならば説教をしてやろうと思って探ったのだが、残念ながら見つからなかった。
子供達だけで生きるには過酷な環境だ。素直に孤児院に保護してもらった方が良さそうだが、ラルズが示した問題もあるかもしれない。部外者ではおいそれと口出し出来なかった。
「すげえ……そんなことまでわかるんだ」
「おにいちゃん、すごい!」
「そうか?」
「ああ。ミストルは、ずいぶんと能力が幅広いなあ。私はそんな気配は読めないぞ……」
「そうか?」
『ふふーん。ミストルは凄いんだからね! 僕は最初から分かってたよ!』
ルドルが自分のことの様に胸を張っていた。そんな映像が見えて、我輩も口元が緩んでしまう。
ルドルは本当に出会った時から変人だった。こんな剣である我輩に語りかけ、今でも掛け値なしに信頼してくれるのだからな。
「まあ、そんなことはよかろう」
「良く無いが……まあ、領主様の目に狂いは無かったということだなあ」
「そうだろう? ……ああ。そういえば、お前達の名前を聞いていなかったな。何と言うのだ?」
「……ギンだよ」
「ナル!」
「そうか。では、ギン、ナル。世話になった。今度盗みを働いたら、突き出すからな。稼ぎたければ、この門番に相談してみるが良い」
「おいおい、勝手に……」
「うん? 相談してきた子供を追い返すというのか? 大人の風上にも置けぬな」
「く……っ、いや、……分かった。何か困ったことがあれば、門のところか自警団の詰め所に来ると良い。話は通しておくから」
「わ、わかった」
腕を組んで軽蔑した様に目を細めれば、ラルズが苦虫を潰した様に了承した。最初から頷いていれば良いのだ。
ラルズが頷くのを見て、子供二人が意外そうに目を丸くした。丸くしながら我輩に向かって首を縦に振って見せる。我輩には従順になった。
全ての子供を助けることが出来なくとも、何とかしたくて頼ってきた者の力にはなってやるべきである。
おんぶにだっこな人間は蹴飛ばすが、この子供達は案外素直だ。良いところに紹介してやれば、一生懸命働くのではないだろうか。
ルドルに「ミストルはやっぱり優しいなあ」とほっこりされたので、ふん、っと何となく外方を向いた。ルドルはいつだって真っ直ぐに褒めてくるので照れくさくなる。
「さて。あとは後日、ボスと話をするといい。これからボスに話を付けておく故」
「? わかった」
「ありがとう、おにいちゃん!」
「うむ。……金を盗られるなよ。せっかく稼いだ金だ。大事にするといい」
「「うん!」」
二人が嬉しそうに笑って、駆けていく。途中で何度も頭を下げてきた。律儀である。最初に盗みまくろうとしていた態度が嘘の様だ。
彼らがいなくなるのを見送ってから、改めて酒場を見上げる。視線を感じたからだ。
窓のあたりから一連の様子を見下ろしていた様だが、我輩が見上げたら影が消えた。恐らくボスあたりであろう。
「……まったく。ミストルは本当に訳が分からん奴だなあ」
「そうか? 普通であろう」
「普通ではないだろう。……けど、まあ、私も半ば諦めていたところがあるかもしれないな。昔はもっと、ああいう子供達にも何かしてあげたいと思っていたのにな……」
どこか遠くを見つめる様に自嘲するラルズに、我輩は首を傾げる。
「ならば、今からまた諦めなければ良いのではないのか?」
「え?」
「別に死んだわけでもあるまい。死んでいなければ、いつからでも始めれば良い。違うか?」
「――」
虚を突かれた様に、ラルズの目が丸くなる。そこまで変なことを言っているのだろうか。
ルドルは依然としてにこにこしている。何だか見守る様な目線を内側から感じる。よく分からない。
「そうか……そうだな」
そうこうしている間に、ラルズが一人で勝手に何かを納得し始めた。
うんうんと何度も頷き、よし、と両手を叩く。
「お前さんといると、色々甦る感じがするなあ」
「そうか? よく分からぬが、何よりだ」
「はっはっは。じゃあ、そろそろ行くか? 闇ギルドに」
「うむ。強そうな者も結構いる様だ。楽しみだな」
「……お前さん、実は戦闘狂か? 協会でも即行で喧嘩を売っていたもんなあ」
「売ってきたのはあちら側だ。我輩は買ったまで」
「はいはい」
軽く押し問答をしながら、雑に足を踏み入れる。
途端、むわっとした空気が我輩達を出迎えた。ルドルが「おさけくさい……」と顔を歪めた様な声を出していた。まあ、確かに酒臭くはあるな。アルコール中毒だと言っていた旅人を思い出す。
そのまますたすたと中へ入っていくと、視線の集中砲火を受けた。まるでハチの巣にするかの如き強き視線だ。それくらい強い視線を向けるのならば、いっそ話しかけて来れば良いのに。根性が無い輩ばかりである。
カウンターにいる店員らしき人物は、無言だ。普通こういう時は、何か挨拶をするものではないのだろうか。
『……闇ギルドが経営しているからかな。普通は「いらっしゃい」とか声をかけるって聞いたことがあるけど』
『ふむ。なるほど。とことん闇ギルド仕様ということであるな』
『どうするの? ミストル。頼まなきゃならないんだよね?』
『ふむ。……とりあえず、ボスに繋いでもらわなければならんからな』
まあ、何事も最初が肝心と言う。しかも、実力が物を言うというおまけ付き。
ならば、我輩がやることは一つ。
「おいお前。我輩はここのボスに会いに来た。案内するが良い」
『上から目線ー! とことん上から目線ー! ミストル、実は喧嘩売るの好きでしょっ⁉』
舐められぬため、我輩がひっぱたきの様な挨拶をかますと、ルドルが、わわわわわー! という様に思い切り内側から叫んできた。心外である。
実は、この背後でラルズも「こいつ……」と顔を右手で覆って天井を仰いでいたが、我輩は全く気付かなかった。別に気付く必要も無かった。
少しでも「面白い」「先も読んでみようかな」と思われましたら、ブックマークなど応援お願い致します!
感想も、一言だけでもとっても嬉しいです!
更新の励みになります!




