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第18話 頭を下げるのは当たり前であろう?


「さて。まずは定番の情報収集であるが」

『一番情報持ってそうなのって、ハンター協会?』

「いや、それよりもまずはラルズよ。洗いざらい吐いてもらおうか」

「それって、犯罪者に言うセリフだよなあ。つくづくお前さんの無礼さが笑えるよ」


 ラルズに連れられ、夜は酒場だが昼間は食堂になる店へと連れて来られた後。

 我輩は「依頼を受ける前払いの様なもの」という体でのラルズの奢りと聞き、ここぞとばかりに食事を注文した。肉に魚にスープにパンにと豪勢な食卓になってラルズが引くついていたが、厄介な依頼を受けるのだ。前払い金としては破格だろうと片付ける。

 ちなみに、これだけ頼んだのはルドルが「わあ、美味しそう」とメニュー表を見ながらあれもこれもと呟いていたからだ。生前ルドルが食べられなかったものを大いに堪能する。それも、我輩の旅の目的の一つである。


「とはいえ、私もそんなにたくさん情報を持っているわけではないぞ。ただ、スリムが発端であったこと、大人ではなく子供が狙われること、ということくらいか」

「何故子供なのだろうな。奴隷にしやすいとかか? いや、労働力を考えるなら大人を攫った方が良さそうな気もするが」

「愛玩道具という可能性もある。後は……臓器売買、人体売買、といったところだろう」

「人体売買? 人身売買なら聞くが……臓器売買とは違うのか?」


 愛玩道具とは、要するに大人の玩具にされるみたいな話であろう。あまりルドルに聞かせたい話ではない。

 だが、臓器売買ならともかく人体売買とは何であろうか。ルドルも一緒に首を捻っている。


「治癒魔法は誰でも使えるわけではないことは、ミストルも知っているよな?」

「ふむ……。珍し過ぎることはないが、地方に行くと使える者が一人もいないこともあるとは聞いたことがあるぞ」


 旅人の中には、治癒魔法を扱えるが故に道具の様にこき使われ、逃げ出してきた者もいた。治癒魔法使いは大抵教会に属するらしいが、特に所属する教会の当たりが悪いとそうなるらしい。恨みつらみの呪詛が激し過ぎて、我輩も少し聞いているのが辛くなったことがある。


「それを補うために、治療速度は雲泥の差があるが、治癒魔法とある程度同じ効果が見込める薬を扱う者が近年増えた。おかげで、治癒魔法が使える者がいなくてもある程度の風邪や怪我には対応出来る様になったが、臓器移植が必要なほどの治療になると薬でも魔法でも対応出来ないことも多い」

「聞いたことはあるぞ。確か、魔法で外傷は治っても、臓器そのものの機能が回復しないこともあるそうだな」

「その通り。治すには他人の臓器を移植するしかない、というわけだ」

「確か、亡くなった者からもらうのだったな?」

「ああ。色々条件はあるがね。そして、臓器移植の手術は登録順だ。当然待つことも多い。故に、高値で裏で取引されることも多いわけだが、人体に関する手術も同じだ」


 とん、とラルズが人差し指を叩く。

 切り分けられた鶏肉を口に放り込み、美味いなとぽつりと呟く。

 確かにここの食事はなかなか悪くない。我輩はウサギ肉のソテーを食べたが、じゅわりと溢れ出る肉汁がたっぷりで香ばしく、野営した時に焼いたものとは雲泥の差があった。やはり料理はプロに任せるのが一番である。


「……臓器移植は臓器を移植であろう? 人体移植は、何をするのであるか?」

「うーん……。腕や足を失った者が、義手や義足を付ける。そういった事例も珍しくはないのは知っているよな?」

「そうであるな。しかし、それはあくまで義手で……。……まさか」

「そのまさか、さ。実際の生きた人間の腕や足を無理矢理つなぎ合わせるという違法な取引が為されることもある、というわけだ」

『――っ』


 生身どころか生きたままの体を使って、義手や義足にする。つまり、ラルズはそう言っているのだろう。

 ルドルが吐きそうなほどに真っ青な反応を示していた。想像してしまったのだろう。こういうのは想像力が働くほどきつくなる。


「臓器なら分かるが……手や足もであるか? 確かに理屈だけならば可能であるが……拒絶反応は臓器よりも強そうであるな」

「その通りだ。機械などの義手よりも生身の手を使った方が動きが滑らかで良い、と、実際犯罪を犯した者は言うわけだが……。色々な問題のために臓器移植とは違い、その方法は例え死者のものであろうと現時点ではどこの国でも認められてはいない。リスクも臓器移植よりも遥かに高く、より酷い状態に陥ることもしばしばある。大抵の者は手を出そうとはしない」

「そうであろうな。思想は自由ではあるし、状況にもよるであろうが……、……」

「まあ、言わんとするところは同意だ。……そして臓器の移植とは異なり、こちらは今の技術では遺体のものは一切使えない。だから」

「……生きたまま、か。……惨いことを考える」

「もちろん公的には認められていないから、闇の取引だ。そして、腕が良ければ良いほどつなぎ目が分からないほど綺麗に縫える。成功された場合は見つけにくいことがほとんどだ。……後は、そういうものをコレクションにする人間もいるらしいからな。その場合は、大人よりも子供の方が希少価値が高い」

「……なるほどな」


 もしそれが事実なら、犯罪者は相当のクズということになる。

 ルドルなど、もはや顔面蒼白だ。顔は見えはしないが、腹の底が凍える様に震えている。彼の恐怖と怒りが綯い交ぜになって渦巻いているのが手に取る様に分かった。

 ルドルの心理的なケアを鑑みても、早期に解決してしまいたい。ルドルの頭を撫でる様に、そっと我輩は手を腹の部分に置いた。


「そういう理由でないことを祈りたいが、……どちらにしろろくな理由ではないだろうな」

「ああ。……ヴァルス様も、民に被害が及ぶ前に捕まえたいと考えておられる。まあ、お前に依頼をするとは思わなかったがなあ」

「恐らく、我輩の実力を見込んでだろう。お前にわざわざ補佐をさせるくらいだ。情報収集のやり方も覚えろ、と言うことかもしれぬ」


 これから冒険家を目指すならば、あらゆる方向性の能力を鍛えなければならない。我輩は力だけなら誰にも負けぬ自信があるが、世の中の常識はさっぱりだ。そして、ルドルも割と世間知らずっぽいことが判明している。人間の倫理観などは頼りになるが、常識は半々といったところだ。

 そうすると、こうしてラルズと共に行動出来るこの状況は渡りに船である。これを機に、人間の世界について学ぶのも良いだろう。


「よろしく頼む。我輩も知らないことが多い故、教わることも多いであろう」

「……偉そうなのか素直なのか分からん奴だなあ。だが、まあいい。私としても、是非とも捕まえてボコボコにしたいところだよ。しばらく協力しようじゃないか」

「うむ。ではまず早速……」


 どこに情報収集に行けば良いか。

 しばし考えていると、ルドルがぴんっと閃いた様に挙手をしてきた。


『闇ギルドとかどうかな! 物語ではよく、裏家業の人とかお偉いさんが、高いお金を払って依頼とかしているよ!』

「なるほど。闇ギルドか」

「や、やみぎるど……」


 何故かラルズの頬が引くついていたが、反応しているということは存在はしているということに他ならない。


「つまり、あるのだな?」

「あるにはあるが……いきなりまさかの裏技を選択するとは思わなかった。……お前さん、金は……、……いや。お前さんは、実力で色々ねじ伏せそうだな」

「ふむ。力があれば何でも依頼出来るということであるか」

『ミストルなら、いざという時でも大丈夫だよね! きっとボスも一発だもん!』

「よし。では、闇ギルドへ行こうではないか。まずはそれらしき治安の悪そうな場所へ案内してくれ」

「やっぱり偉そうだなあお前さんは。……いや、頭を下げるだけマシか」

「当たり前だ。人に物を頼むのならば、頭を下げるのが道理。頼むぞ」

『ミストル、偉い! さすがミストルだね!』

『ふふん。そうであろう?』

「……言い方が偉そうなのに、態度はきちんと直角に頭を下げる。この矛盾、すごい違和感だなあ……。面白い奴だ……」


 何やらぶつぶつラルズが呟いていたが、結局普通に素直に案内してくれた。

 彼は結構面倒見の良い中年のおじさんである。

 そう率直に伝えたら、何故か涙を流された。

 年齢は、まだ三十代だと主張された。ルドルも「あれ?」と目を点にした様な雰囲気で首を傾げていた。


 ――もっと上だと思っていた。


 まさかそんなことは口が裂けても言えない。ルドルの慌てふためく様子から、流石の我輩でも理解した。



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