第15話 冒険家を名乗るためには
「冒険家かあ。久々に聞いたね、その言葉」
ヴァルが淡々としながらも興味深げに視線を向けてきた。
冒険家は、全てのハンターの頂点の様なもの。やはり目指すには難易度が高いということであろうか。
「何故だ? ハンターとやらはたくさんいるのであろう?」
「まあね。でも、冒険家って、本当にハンターの中でも財宝、魔物、遺跡、賞金首、依頼、幻獣とかたくさんあるもの全てをやるって感じの職業だから。目指す人って何も知らない子供が一番多いんだよね」
「つまり、我輩は子供と同じということであるか」
「そういうことになるね」
「ふむ。まあ、よかろう。しかし、依頼や幻獣は初めて聞くが、一体どういうハンターなのであるか?」
「……お前さん、ハンターの何たるかを知って冒険家になるって言ってたんじゃあないのか?」
「ハンターなどほぼお目にかかったことが無かった故な。冒険家を目指すならば、知っておきたい」
ラルズのツッコミには、平然と無知をひけらかす。
ルドルから聞くまで、種類がたくさんあることも知らなかった。財宝ハンターにしか会ったことがない、というのもある。
腕を組んで堂々と言い放つ我輩に、ラルズが呆れた様な目になっていた。失礼な。誰でも最初は無知から始まるものである。
「まあ、いいか。……依頼っていうのは、その名の通り街の人や領主、貴族からの依頼をこなすハンターだ。ゴミ拾いや素材採取、害獣の駆除など人の依頼分だけ種類は多岐にわたるよ。まあ、何でも屋だと思えば良い」
「ふむ、人助けであるか。良いことであるな」
「……」
「何であるか?」
「いや、……そういう純粋な心を持ってくれるハンターばかりだと、楽なんだがなあと思っただけさ」
ラルズの言葉に、我輩は首を傾げるしかない。依頼をしてくる者達は、困っているから依頼を出すのではないのだろうか。そして、その困ったことを解決するために依頼ハンターがいるのだろう。
ならば、とても良いことをしていると思えるのだが、現実は違うのだろうか。
まあ、人間とは強欲な生き物である。その依頼さえも何かしらの罠が仕掛けられていたり、含みが持たされたりしているのかもしれない。
「それから、幻獣ハンター。これは、未確認、または未確認に近い生物を発見することを目的としたハンターだ。発見したらかなりの大金がもらえる。遺跡よりも希少価値が高いから、他のハンターと兼任していることが多いな」
「ふむ? いるかどうかも分からぬ生物を探し求めるということであるか? ならば、一生見つからない可能性もあるということであるな」
「そうだ。だから、他のハンターと兼任している者が多い。それ一本でやっている人間も片手で数えるほどにはいるが……そちらはもはや酔狂と言われているなあ」
「なるほどな……。まあ、冒険家などは全てのハンターを兼任しているわけだから、不思議ではないのか」
世の中には面白いものが職業としてあるものだ。グルメの旅をするには丁度良い刺激となるであろう。
「では、冒険家になりたいのだが、どうすれば良い?」
「あー、冒険家は……、……」
「ミストルは、世界中を旅する予定なんだね」
ラルズが言いにくそうにしていると、ヴァルが横からすぱんと押しのけて話し始めた。
何だ? と疑問は抱いたが、とりあえず頷いておく。
「一応、そのつもりではある。何だ、冒険家になるには相当の資格が必要なのであるか?」
「資格は特に必要ないよ。ただ、周りに認められるかどうかは別ってだけ」
「うむ? どういうことだ? ただ名乗っても認められないのか?」
「冒険家っていうのは、全てのハンターの頂点に立っているって言っている様なものだからね。ハンターでの実績が伴わないうちに名乗っても、本気にはされないってことさ」
「ああ、なるほど。素人の癖に俺達の上に立とうなんざ生意気な、というやつであるか」
「ぶっちゃけ、そう。……ただ、ねじ伏せるだけの力を持っているなら話は別。ミストルは強そうだね?」
ヴァルの問いかけに、我輩は大いに頷く。――体力は酷いが、実力だけならば他の者達に負けない自信はある。
「いちゃもんを付けられても、全ていなせる自信はあるぞ」
「じゃあ、あとは実績だね。冒険家を名乗りたいなら名乗ればいいよ」
「――ヴァルス様」
ラルズが目を瞠ってヴァルを見やる。
ヴァルはそれを完全に無視していた。いや、我輩の方に真っ直ぐ興味を示している感じがした。淡泊な瞳をしているのに、どこか面白がっている様な色が煌めいている。
「ただ、最初は思い切り馬鹿にされることは覚えておいて」
「ふむ。その馬鹿にしてきた者を片っ端からぶっ飛ばせば良いのだな?」
「そうだね」
「ヴァ、ヴァルス様⁉」
『ミストルー! 暴力だらけの解決は駄目だよ!』
「だが、ぶっ飛ばすだけで何もしないのも駄目であるな。ヴァルよ、何か依頼は無いか? 早速ハンターとして何か功績を上げておきたい」
「み、み、み、ミストル! お前さんってやつは……!」
『……ミストルって、恐いもの知らずだよね。うん。分かってた。流石はミストルだよ』
ラルズとルドルの反応が見事に噛み合っていたが、無視である。冒険家どころかハンターとしての第一歩も踏み出せなければ、どうにもならない。
後、世の中は金。金を稼がなければいずれ路銀も尽きてしまう。それだけは避けねばならない。
ヴァルは、うーんと首を捻っていたが、やがてさらさらと紙に何かを書き始めた。すらすらっと綴られた文字は、面倒くさがりな性格とは違ってかなり綺麗なものだ。流石は領主と言うべきか。
「ラルズ。彼を、ハンター協会に案内して、免許を取得させてあげて」
「……はっ」
「それで、この依頼を彼に受けさせて」
「は、……え。これは」
「最近、隣町で人が消えることがあるって言ってたでしょ。それがこっちにも来そうだったんだよね。だから、ミストル。お願いね」
「うん? 人探しか?」
「違う違う」
ぼんやりした眼でありながらも、どこか冷たい光を放ってヴァルが断言した。
「人攫い」
「――」
「まずは、依頼ハンターとしての仕事をこなして、大いに実力を見せつけると良いよ。……これは、他の街の問題も絡んだ依頼だから、良い足がかりにもなると思うし。頼むね」
『え、え、……えええええええええ!』
淡々と、けれど飄々と渡してきた依頼は、結構大掛かりなものである。
我輩よりも、一緒にいるルドルの方が泡を吹きそうな勢いであった。
もし、物語を読んで「面白い!」「続きが気になる!」と思って下さいましたら、
ブックマークや感想、「いいね!」または星を下さると嬉しいです!
更新の励みになります!




