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第14話 我輩以外にも特殊な武器が存在した


 いきなり核心を突かれた。

 やはりこの領主、曲者である。



 目の前の領主の言葉は、質問ではない。確信だ。



 ラルズなどは驚いて我輩と我輩の腰にある剣を忙しなく交互に見つめまくっているが、普通ならば見た目だけでは分からないはずだ。鞘は立派だし、いくら斬っても刃こぼれもシミも一つも付かないが、それは使ってみて初めて知ることである。見た目はそこまで他の武器と違いは無い。はずだ。冒険者が持っている武器を見定めたから、間違いないはずである。


 我輩の剣は、千年以上その身を土にうずめていた。


 誰も、全身を見たことが無い。我輩でさえ、今回が初めてであった。

 それなのに、領主ヴァルは言う。「それがミストルティンか」と。

 剣から発せられる力か、気配か。どちらにせよ、本当にただの面倒くさがりな領主ではない様だ。


「……何故分かった?」

「剣に内包されている魔力が凄まじいから。それが本だったら、是非とも読んでみたかったよ」


 どこまでも書物に例えるこの領主は、本気で本好きらしい。

 裏を返せば、本では無いからそこまで興味が無いということだ。

 彼の行動基準、判断基準はどこまでも本。いっそ清々しい。

 だが、ラルズはそうでは無かった様だ。



「な、なんだって……⁉ ま、魔剣、ミストルティンが、抜かれた……っ⁉」



 がたっ、と音でも鳴りそうなほど体を引かれる。

 直後、「本を崩したら元に戻すまで帰さないからね」とヴァルに言われ、ぴしっと直立不動になった。この本を元の位置に全て戻すのは無理そうである。我輩も魔法を使わない限りは覚えていない。無理だ。――まあ、この本の山は彼の魔法で固定されているから、ある程度大丈夫ではあるだろう。恐らく。


「し、しかし、あれは千年以上誰も抜かれたことがない、と」

「我輩は抜いた。……村に危機が迫ったからやもしれぬな」


 適当な理由を付けて、我輩は腰に付けていた魔剣に手をかける。

 領主のいるところで武器に手をかけたからか、ラルズが一気に警戒心を上げたが、当の領主であるヴァルが「いいよ」と軽く手を振って警戒心を霧散させた。つくづく読み切れぬ男である。


「そう。まあ、ミストルティンは剣だし。振るってもらった方が嬉しいだろうから、良いんじゃないかな」

「軽いな」

「軽いよ。別に僕のものじゃないし。気付いたら刺さってた。それにいちゃもん付けて所有権を主張する輩がおかしいんだよ」


 あっさりさっぱりした性格である。面倒くさがりだからと言えなくもない。

 だが、我輩達にとっては丁度良かった。これで「我が剣となれ盾となれ」とか言われたら、即刻行方をくらますところだった。


「ただ、あまり騒ぎ立てては欲しくない。この剣が抜かれたのが結構な大事であるのは、我輩も分かっている故」

「いいよ」

「軽いな」

「軽いよ。僕にとって問題なのは、村を滅ぼした野盗の方だから」


 ふうっと溜息を吐いて、ヴァルが剣から我輩へと視線を移す。

 その寝ぼけた様な眼差しの奥には、聡明で理智的な光が凛と鳴り響く様に宿っている。彼は確かに面倒くさがりなのかもしれないが、上に立つ者としての気概はきちんと備えている様だ。人間とは面白い。


「どんな野盗だった?」

「ふむ……荒くれ者、といった印象であったな。親分と呼ばれているボスがいて、そいつが恐らく一番強かった。……とは思う」

「曖昧だね」

「我輩の敵ではなかったのでな。……大切な者を殺され、頭に血が上っていた。最後は情けなかったぞ。命乞いをしてきた故な」


 言いながら、我輩の目から熱という熱が削ぎ落されているのが分かった。己自身、ずいぶんと視線が凍えきっていると感じたからだ。

 傍にいたラルズは、少しだけ青褪めた様に一瞬体を震わせていた。

 それでもすぐに落ち着き払っていたあたりは流石だ。我輩も、村の出来事を思い出すとまだ上手く殺気が制御出来ない。

 しかし、目の前で殺気に当てられたはずの領主は眠たそうな態度そのままだ。かなり肝が据わっている。



「なるほどね。……ただの馬鹿な野盗であることを祈りたいけど」



 まるで、ただの馬鹿な野盗ではない様な言い方だ。

 我輩からすれば、弱者を甚振いたぶるくせにいざとなれば命乞いをしてくる様な輩の時点でどれも雑魚であるのだが、人間からするとそうではないのか。


「何だ? 何かあるのか」

「最近、特殊な武器を狙う集団みたいなのが出没している、って聞いたことがある。もしかしたら、その一派かもしれないと思って」

「特殊な武器?」

「そう。君が持っている魔剣ミストルティン、どこまでも血を求めていると言われるダーインスレイブ」

「いきなり恐いことを言い始めたな」

「知らない? まあ、村から出たことがないなら仕方がないか。後は、雷光の様な輝きを刀身にまとわせ、気に入らなければ持ち主ごと焼き尽くすと言われているレーヴァテイン、栄光と同時に破滅をもたらすともっぱら噂の呪いのティルフィングとか」

「まともそうな武器が一つも無いのだが?」

「気のせいだね」

『気のせいかなあ……』

「……つまり、ミストルティン以外にも、そういう曰く付きの武器があるということであるな。まあ欲しがる者は欲しがるだろうが……目的を持って集めているかもしれぬということか?」

「そうだね。だから、警戒してる。今のところ、抜かれたと判明している武器の持ち主は、全員そいつらをぶっ飛ばしているみたいだけど」

「おお……強いのだな」

「それはね。……それで、何か特徴とかなかったかな。その、荒くれ者に分かりやすく刺青みたいなのがあった、とか」


 言われてみても、我輩の記憶には棒にも端にも引っかからない。何故なら、ルドルを殺された怒りでもはや、相手の命を奪うことしか考えていなかったからだ。

 しかし、ルドルは違ったらしい。


『……そういえば』


 ぼそっと、ルドルがあごに手をかけて思案する様な感じで零してくる。実際には見えないのに、ルドルの仕草が手に取る様に分かるのが不思議だ。これが一心同体というやつなのかもしれない。


『僕を刺した人間、真っ黒な獣? みたいな痣が舌に見えたかも』


 刺した人間。

 その事実に、ぶわりと黒い殺意が燃え上がりそうだったが、辛うじて抑えた。

 ルドルは魂の存在で我輩と同居している様な感じだからか、その時の恐怖は緩和されているらしい。あまり怯えは感じられなかった。――唐突過ぎて、恐怖を感じる暇も無かったのかもしれないが。

 せっかくルドルが話そうとしているのだ。我輩も素知らぬ顔で受け答えをする。


『舌? わざわざ、舌に刺青いれずみを施すと言うのか? 酔狂であるな』

『うーん。僕も、ちらっとしか見えなかったし、見間違いかもだけど。本に出てきた悪党の中には、鼻とか舌とかにピアスをしたり刺青を入れたりする人もいたから、いるかもよ?』

『そうか。ならば、それをそのまま伝えよう。感謝するぞ、ルドル。目と記憶力が良いな』

『そうかな? えへへ』


 体が二つあれば頭を撫でてやったのだが、あいにくそれは叶わない。

 故に声だけで撫でる様な優しさを乗せれば、照れくさそうにルドルがはにかむ。こういうところはまだまだ子供だ。微笑ましい。


「……定かではないが。ボスっぽい人間の舌に、黒い獣みたいなものが見えた」

「獣」

「うむ。本当にちらっとしか見えていない故、自信はない。だが、舌に刺青を入れる者もおろう?」

「そうだね。……なるほど。だとすると、今巷で騒がせているその怪しい集団の一派かも。特殊な武器を集めてる集団も、どこかに獣の刺青を入れてるって聞いたことがあるから」


 まさか、ただの雑魚だと思っていた野盗連中が、巷を騒がせている悪党集団と絡んでいたとは。人生、どこで何がどう繋がるか分かったものではない。

 しかし、そう考えると我輩の復讐は終わっていないということになるのではないか。何せ、ルドルや村の者達を殺した仲間がまだまだいるということだ。

 つまり。



「殲滅であるな」

『危ないからやめよう⁉ ミストル、もう仇は討ってくれたじゃない!』

「仲間がいると思うと腸が煮えくり返るのである。これはもう殲滅しかない」

「殲滅するかどうかは君に任せるけど。どちらにせよ接触は図ってくるかもね。君がそのミストルティンを持っている限り」

『そ、そうか! ……ミストルの手から離れても、ミストルが念じるだけですぐ戻ってくるらしいから。切っても切り離せない関係ってことだね』



 しょぼーん、とルドルが落ち込んでいるが、我輩としては願ったり叶ったりである。

 とりあえず、グルメ旅の他にも目標が出来た。是非とも出会ったら一人残らず殲滅することを誓う。


「し、しかしミストル。君、身分証明書も無いんだろう? 証明書については色々方法はあるが……。村が無くなった今、この先どう生きていくつもりなんだい?」


 ラルズが思い出した様に訪ねてくる。

 そういえば、その問題があったか。



「我輩としては、冒険家とやらを目指そうと思うのだが」

「――――――――」

「やはり、身分証明書が無いと駄目であるか?」



 我輩の何に反応したのか。

 ラルズだけではなく、ヴァルも興味深そうに我輩を見上げてきた。



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