表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
66/82

 66 前提として




   〇まえの回のあらすじです。


   『ユノが、友人のフローラに、じぶんの計画をつたえる』






「聞き()てならないことを言ってくれるわね」

 みじかく息を()いて、フローラは大樹の(うろ)の部屋でほおづえをついた。

 かのじょの反応は()り込みずみだ。

 これくらいの落胆(らくたん)ですませてくれると思っていた。

「ちなみに()くけど、人の世界を独立させるってのは、具体的にどうするわけ」

「うまく説明できるか分からないけど」

 あたまに手をやろうとして、ユノの(ゆび)さきは【覇王(はおう)(かんむり)】に触れた。

 きのうからつけっぱなしにしていたものだ。

 はずしかたが分からなかった。


 フローラがアゴをしゃくる。

「いいわよ。とりあえず言ってみて。こっちでなるべく整頓(せいとん)して聞いてみるから」

「うん……」

 すすめられるままに、ユノは答えた。

「えーっと。まず、今は人間の世界って、【(ぜん)】の神さまも、【(あく)】の神さまも、いない状態なんだよね」

「『善』のほうは、たしかにハルが妖精側(ようせいがわ)にいるからわかるけど。【()()ってのは? 後継(こうけい)にあたる存在が誕生(たんじょう)してしまったって、ちょっとまえにセレンが言ってたけど」

「そう……。エバっていう子がそうなんだけど」


 ――前提(ぜんてい)として。

 この、ユノにとっての【異世界】であるメルクリウスは、とりわけ人間界において、本来【善】の神と【悪】の神の二柱(ふたはしら)があって、はじめて秩序(ちつじょ)だった状態(じょうたい)が存在・維持(いじ)される。

 現在、人間の()には混沌(こんとん)とした風情(ふぜい)蔓延(まんえん)しているが、それは【善】のちからの調停者(ちょうていしゃ)たる金の(りゅう)が不在となり、また、金竜(きんりゅう)の調整をうしない、噴出(ふんしゅつ)した憎悪(ぞうお)悲憤(ひふん)()()()()として機能していた【悪】の調停者【ディアボロス】もまた、いなくなったためである。


「もとより、」

 とユノはつづける。

「だれかの制御(せいぎょ)なくしては、この世界の人は、()()()に生きることができなかった。いや、ちゃんと自分のちからで考えて、行動して、生きている人もいるのだろうけれど、あんまり多くはなかったんだ。すがるものがなければ……」

(みみ)の痛い(はなし)ね」

「きみのことを言ったんじゃないよ」

 ユノは(にが)い顔をするフローラに、あわてて訂正した。が。


「いやしくも、わたしも王家(おうけ)末席(ばっせき)(けが)す身でね。(たみ)不躾(ぶしつけ)な生きかたをしてきているというのなら、それはかれらの()む土地をおさめ、かれらの教養を(つちか)うだけのことをしてこなかったわたしたちの責任でもあるのよ。……まあ、もう(しろ)にもどる気のないわたしには、なにを言う権利もないんだけど」

「えっ……」

 ユノは(あたま)をはねあげた。

(……城にもどる気がないってのは)


 ――人間界に帰らない、ということだろうか。

 フローラは、なにごともなかった(てい)でユノに「つづけて」と(てのひら)をむけてうながした。

 ユノの動揺(どうよう)に、気づかなかったわけではなかろうに。








評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ