65 ユノの信条
〇まえの回のあらすじです。
『妖精の少女・【ミズウ】が、人間界と妖精界の隔絶について、ホビットの老人たちにおしえてもらう』
〇
「ま、セレンの気持ちもわかるつもりよ。わたしは」
『狩り』をしたつぎの日である。
ひる過ぎにたずねてきたユノに、フローラはひとしきり話を聞いたあと、そう言ったのだった。
ところで、ユノはやはり妖精の世界の『時刻』について、人間の世界と同様であると考えていたらしい。妖精の世界にも朝と昼と夜があり、空が暗くなって明るくなれば、一日がすぎたのだと。
しかし妖精たちは、基本的に時間を区分するようなシステムを必要としない。スケジュールがなく、気ままに暮らしているからだ。
ともあれ、あって困るものでもなく、あったほうが便利なこともあるため、『日時計』なるものは存在した。里の入りぐちに立っているポールがそれで、特殊な塗料によって描かれた『文字盤』には、四つのエリアがあり、それぞれの色分けがされたなかに、『朝』、『昼』、『夕』、『夜』と、古代文字で刻まれている。
ユノはフローラの狩りを見たあと、【はじまりの庵】にもどって、「いつ外が暗くなるのだろう」と待った。だが、腹は空けども日は暮れず、むしろますます明るくなっていくのに、まぬけにも「もう朝なのかな」とたまげた。
とりあえず空腹を満たすために食事をして、外出にそなえていると、眠気がやってきた。
ねむいときには、そして、ねむれるときにはねむっておきたいのが信条のユノは、「待たせすぎたらフローラ、怒るだろうな」と思いつつも、睡魔にまかせて床についた。
どうせ怒るときには遅刻しなくったって怒るのだろうし、かのじょの怒りはそんなに怖いものじゃない。
というわけで、寝て起きて、ごはんを食べて【霊樹の里】に行ってみたら、「思ったよりはやかったわね」と入りぐちのところで白いワンピースすがたのフローラにむかえ入れられた。
そのとき、はじめて『日時計』なるものの存在を教えてもらった。
いま、ふたりは里にある大樹の洞のなかにいる。室のあるじのハルモニアは、ユノがやって来るなり窓からどこかへ飛んでいき、フローラとふたりきりだ。
そこでユノは、まずフローラに、セレンが人間界のほろびを待ち、世界を妖精の時代にしようとしているという話をした。だいぶとまえに、【魔界】の城で、魔王【ディアボロス】との決戦まえに、セレン本人から聞いた計画だ。
さきの「セレンの気持ちもわかる」というフローラの言は、これを聞いてのセリフだった。
「でもさ、そんなのわたしに聞かせてどーすんの。言っとくけど、あいつのやることには干渉しないからね。ハルのこと以外では」
「うん。それは……そうだろうなとは思ってたから」
ユノは大きなクッションの上にあぐらをかいていた。今日はエクスカリバーも、常備している剣も庵に置いてきた。
里の住民たちの、ひとに対する警戒心は知っているつもりだ。
「んじゃあ、なんだってのよ」
「ボクのやることについても、なにもしないでほしいんだ」
「……ことと次第に依るわね」
青い目をすがめて、フローラは床几にもたれかかる。
ユノはすぐに言った。
「きみに危害をくわえるつもりはないよ」
「わたしには、ってことは、ほかの誰かをキズつけるってことなのね」
「そうなるかもしれない。だから、そうなったとしても、助けにはいるってマネだけはしないでほしいんだ」
「それが誰なのかってのにも依るわ。ハルじゃないよね」
銀色の前髪の下で、フローラの双眸は壁に掛けている自身の細剣をさぐっていた。答えによっては、すぐにでもかのじょはそれを抜きにかかるだろう。
「ハルモニアじゃないよ。セレンさんなんだ」
「セレンをどうするの」
即座の切かえしに、ユノはこの場に武器を持ってこなかったことを後悔した。護身用のダガーだけでも装備しておくべきだったが、もうあとのまつりである。
フローラの剣の腕は知っている。一度切りむすんだことがあるし、きのうの『狩り』の時にも感じたが、「仕留める」となったらかのじょは容赦がない。
徒手空拳でどこまでできるかわからないが、ユノはかのじょが斬りかかってきたら、最大限の抵抗をしようと決意した。
「……セレンさんを殺すことになるかもしれない。人間の世界を、独立させるために」




