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第二話 『茂団市総合病院の戦い ~光と闇の決戦~』


 西暦2082年5月13日 火曜日 午前7時31分



 チュンチュンと可愛らしい鳥のさえずりで僕は目覚めた。

 枕元に置いてある時計を見て現在の時刻を確認する。

(7時30分か……今日は少し遅めに起きちゃったな)

 昨晩は寝ようしても五十嵐さんとぶつかった事をつい思い出してしまって、心臓がドキドキしてなかなか寝付く事ができなかったのだ。

 普段、僕は7時前には起きている。

 立ち上がり軽く伸びをした後、カーテンを開く。

 外から入ってくる光の眩しさに一瞬目を細めるも、すぐ慣れて窓の向こうの景色を眺める。

 今日も青空が綺麗ないい天気だ。

 向かいの家の屋根が太陽の光を反射して輝いている。ピカピカしている板は太陽光発電のソーラーパネルだ。

 奥の方に目をやると、風力発電の白い風車が風を受けて、ゆっくり回転しているのが見える。

 昔は太陽光発電も風力発電も数が少なかったみたいだけど、今ではこれが一般的だ。

 原子力発電機や火力発電機は地球の環境を破壊してしまうから、2070年には世界中から姿を消した。

 代わりにどの家にも太陽光発電機を付け、広い場所には風力発電機をたくさん作った。

 昨日の近代現史の授業を頭の中で予習しながら、ふぁぁ……と口を手で押さえてあくびをした時、

「洸、朝よーっ!」

 と、下の階から母さんの声が聞こえた。

 そういえば今日は少し遅めに起きた事を僕は思い出し、慌てて階段を下りた。


「洸、今日は起きるの遅かったけど、何かあったの?」

 朝ごはんを食べていると、母さんが少し心配そうな顔をして聞いてきた。

 ちなみに朝ご飯は、ご飯とお味噌汁と目玉焼き。それと昨日僕が作った肉じゃがの余りだ。

 僕の母さんの名前は高橋 渚。小児科医なんだけど今は病院の夜勤の当番をやっており、昼夜逆転の生活をしている。今年で40歳になるんだけど、やたら若々しい。僕と並んで立つと何も知らない人からは兄妹に思われたりもする。


 ちなみに、父さんの高橋 光一はカメラマンだ。今は旅行(?)に行っている。

 先々週ゴールデンウィークの連休前、父さんは突然謎の置手紙を残しどこかに消えた。手紙の内容は以下の通り。


『キリンさんの角を折る夢を見た、ちょっと折って来る。

追伸 ゾウさんはもっと好き』


 母さんはまったく心配していない。父さんいつもの事だからだ。

 僕も心配はしてない。父さんはそのうちひょっこり帰ってくると思う。


 ご飯をよく噛みながら、どう答えたらいいだろうかよく考える。

(気になる人の事がどうしても頭の中によぎって、なかなか寝付けなかった……なんて流石に言えないよな)

 どうやって誤魔化すか頭の中でまとめ、噛みすぎてドロドロになったご飯を飲み込んだ。

「月末に中間テストがあるから、少し勉強をしてたんだ」

「あら、そうなの。無理しないでね」

 母さんが安心した表情で僕を見ているので、嘘をついた事に心がチクリと痛み、誤魔化すようにニュース番組を放送しているテレビの方に顔を向けた。女性キャスターがちょうど次のニュースを話すところだった。


『先日未明、群馬県と栃木県の県境で乱闘騒ぎが発生。

 群馬県警と栃木県警が現場に急行しましたが、駆けつけた両警官も乱闘に加わり

状況は更に悪化。結局、埼玉県の機動隊が出動し場を収めました。

 幸いな事に死者はいなく、重傷者8名と軽傷者21名との事です。

 …次のニュースです、東京都で有名なお菓子の三角形の秘密を探っていた新聞記者が遺体となって発見された事件で新たな情報が……』


「あら、またなの? なんで群馬県の人と栃木県の人は仲が悪いのかしら?」

 群馬県民と栃木県民は仲が悪く、しょっちゅう何かしら事件を起こしている。

なぜ仲が悪いのか、理由知っている人は当人達以外たぶんいないと思う。

僕の両親が生まれるずっと前からも、既に仲が悪かったそうだ。

 ニュース番組の左上に表示されている時刻をチラっと見る、少し急いだ方が

良さそう。僕はご飯をガツガツと口の中に入れて、そして思いっきりむせた。


 朝ごはんを済ませた後、素早く学生服に着替える。

 洗面所の前に立ち、顔を洗い歯磨きをさっさと済ませて、改めて鏡を見る。

 黒い詰襟を着た子どもっぽい顔立ちの小柄な高校生が映っている。

(もっと……こう、バーン! と、大きくならないかなぁ……)

 限界まで背伸びをしてみるも、身長が実際に伸びるわけでもない。

 先月の4月に行った身体測定では、僕の身長は163cmだった。

 去年の身体測定では161cmだったので、まだ少しは伸びてはいるようだ。

両足のかかとを床に付けて、少しネガティブな気分になり、いつもの癖でため息をつこうと息を吸う。

 カリンさんの顔が頭をよぎり、吸った息をゴクンと飲み込んだ。

(幸せが逃げたら困るもんな……)

 最後に寝癖がないかを確認し、僕は洗面所から出た。


 「洸、忘れ物ない? ハンカチ持った? ちり紙は?」

 玄関で屈みこみ靴を履こうとすると、横から母さんが声をかけてきた。

 靴を履きながら首だけ母さんの方を向き答える。

「大丈夫、ちゃんと持ってるよ」

 「そう……あ、それと昨日作ってくれた肉じゃが、すごく美味しかった。また作ってね」

 母さんは夜勤なので、夕方は寝ている。なので代わりに僕が毎日晩ご飯を作っている。

 「うん、いいよ」

 靴を履き立ち上がる。

「それじゃ、いってきます」

「いってらっしゃい。気を付けてね」

 玄関の戸をガラッと開け、一歩踏み出しピシャっと戸を閉める。

 寝坊の遅れを取り戻す為、僕は早足で学校に向かった。

 

 新潟県茂団市、それが僕の住んでいる街の名前だ。

 時代遅れの古い建物が多く、本物の大正時代にタイムリップしたような錯覚を覚える。

 それもそのはず、この茂団は大正時代をモチーフにして大規模な改装を過去に行ったのだ。


 もともと新潟県には茂団市という地名はなかった。

西暦2030年頃、新潟県から県外に移住していく若い人が多くて、新潟県全体がだんだんと活気を失っていった。

 当時の新潟県知事はその現状に悲しみ、観光地を作りアピールすれば、若い人が来てくるんじゃないかと考えた。

 そこで目をつけたのが、新潟市から離れた場所にある寂れた町村だ。

 これらの町村一帯をまるごと大正時代そっくりな街並み(なぜ大正時代なのかは当時の県知事の趣味らしい)にする大規模な計画を立案。

 もともとその町村一帯は古い建物がほとんどなので、少し手を加えるだけで本当に大正時代のような街並みになった。


 その町村一帯を茂団市と名付け、若い人がいなくなり誰もいなくなった家を格安で提供し、ラジオや新聞、チラシなどで宣伝をした。

 その結果、多くの若い人が県外からやってきて、新潟県茂団市に移住するようになった。

 このような大規模な都市計画は国内で始めてで、色々な都道府県や市が真似をするようになったらしい。

 例えば北海道のある地域は丸ごとアイヌ民族を意識した町に改装し、群馬県は県全体がジャングルのようになっているらしい。三重県の伊賀市と佐賀県の甲賀市の町並みはまるで江戸時代で、更には住民が忍者のような格好をして伊賀市と甲賀市で争っているという噂もある。


 早足で歩いていたので、結構疲れた。ペースを少し下げる。

 気になり携帯電話を開き今の時刻を確認する。

 現在7時55分。朝のホームルームは8時20分に始まるので、

今のペースで歩いてもあと学校まではあと10分もあれば到着する。

 携帯電話を閉じてポケットに入れると、モダン公園の方から何やら声が……いや、叫び声が聞こえてきた。

 一体なんだろうと足を止めて公園を覗いてみると、そこにはその場でひたすらジャンプを狂ったように繰り返しているカリンさんの姿があった。


「フジヤマァァァッ!!」「ナットォォォッ!!」

「ゲイシャァァァッ!!」「ホァァァァァァッ!!」

 ジャンプをする度に長い金髪がフワリと宙を舞い、太陽の光を浴びてキラキラ輝いている。

 一体今度は何をやっているんだろうという疑問が強く、綺麗だな……という最初思った感想はすぐどこかに消えていった。

 おそるおそる近づき、横から声を掛ける。

「あの、カリンさん。何をやってるの?」

「オーゥ! コウサーン! オハロー! ゴザイマース!!」

ジャンプを繰り返しながら僕の方に体を向けて、右手をブンブン振って挨拶してくれた。

 近くで見るとカリンさんの額は大粒の汗だらけで、ジャンプする度に光る汗が落ちて地面にポツポツと染みを作る。


「あ、うん……おはよう。ええっと、ところで何をやってるの?」

「二段ジャンプノ、練習デース! ベリィハードデース!!」

(二段ジャンプ……って、不殺の誓いをたてた侍が主人公の漫画で見た事があるけど、ジャンプして空中で更にもう一回ジャンプするアレだよね)

「ええっと、アレは漫画の話だから……」

 現実では出来ないよ。と、言おうとして止めた。

 夢中になって繰り返しジャンプしているカリンさんの無邪気で可愛くて、フワフワと踊っているような輝く金髪がとても幻想的で……つい、見とれてしまっていた。

 見たことはないけど、何だか妖精みたいだな……と、思った。

「何カ、言マシタァー?」

「い、いや! ななな、何でもないよ!」

 楽しそうなカリンさんの邪魔をしては悪いと思い、誤魔化してしまった。

 続きを言ったらどうなってたんだろうか?悲しそうな顔をするのかな……。

 何だか、カリンさんの悲しそうな顔は見たくない気がした。

 しばらく時が経つのを忘れ、僕はカリンさんのジャンプに見入っていた……。


 ふと急に我に返り、ポケットから携帯電話を取り出し時刻を見る。

 8時13分と表示されていた。

「ちょ、ちょっとカリンさん! 学校、学校!遅れちゃう!」

 慌ててまだジャンプしているカリンさんに携帯電話の画面を見せる。

 ジャンプを止めた汗だくのカリンさんは僕の携帯電話を覗き込み、「ワァオ」と言って口をOの字に開く。驚いているようだ。

「ジャンプシテイタラ、モウ一時間タッテタネ! 光陰マッハノゴトシネ!」

(一時間もここでジャンプをしていたのか……)

 学校のある方向に体を向け、走ろうと一歩足を踏み出し……右手が柔らかい何かにギュッ包まれた。

 目を向けるとカリンさんの小さな左手が僕の右手を握っており、彼女の右手は走りやすいように袴の裾をつかんで思いっきり上に伸ばしていた。

 僕を引っ張るようにで走り出す。僕も釣られて走り出す。

「ヘーイ! 一緒ニ、ゴートゥースクールネ! ヒアウィゴォ!!」

「ちょ、ちょっと!カリンさん!」

 カリンさんに手を握られて恥ずかしいやら嬉しいのやら何だか不思議な気持ちになり、頬がカァっと熱くなった。傍から見れば僕の顔は真っ赤になっていたに違いない。女の子と手を繋ぐのは、保育園のお遊戯の時以来だ。

 カリンさんの汗ばんだ小さな左手は柔らかくて、とっても暖かい。


 急に何故か昨日の五十嵐さんとぶつかった事を思い出す。

 転んだ僕に手を差し伸べてくれた五十嵐さんの色白な手も、こんな感じに柔らかくて暖かいのだろうか?

 自力で立ち上がらず、五十嵐さんの手を借りていれば、手を繋げたんだろうか? 走りながら首を横に振り、その考えを振り払った。それは何というか、ズルいな気がする。

 僕なんかじゃ可能性は限りなく低いと思うけど、ちゃんと仲良くなってから手を繋ぎたい。


「見エタ! ガッコー!!」

 カレンさんの声で我に返った。前方に県立茂団高学校の校門が見える。

 僕はどうか遅刻になりませんように、と何処にいるか分からない神様に心の中で祈り、ラストスパートのダッシュをかけた。


 結局、僕たちは朝のホームルームに間に合った。



 

 西暦2082年5月13日 火曜日 午後4時35分



 学校が終わり、僕は今茂団市総合病院の待合室にいる。

 別に何か病気を患っているとか怪我をしているとかじゃない。

 椅子に座り10分ほど待っていると「洸君、洸君」と、受付にいるお姉さんに呼ばれた。

 受付のお姉さんとは顔見知りだ。よく母さんが迷惑を掛けていて、本当に申し訳なく思う。


 立ち上がり受付カウンターの前に行く。

「院長先生は院長室にいるわ。今休憩中だし、入っていいわよ」

「すみません、また母さんがご迷惑をお掛けしてしまって」

 頭を下げる。

「気にしないで。高橋先生、おっちょこちょいだもんね。洸君も大変ね」

「ええ、まったくです」

 頭を上げて答え、既に何回も行った事がある院長室に向かって歩く。


 今日茂団市総合病院に訪れたのは、母さんの忘れ物を取りに来たのだ。

母さんは夜勤でこの茂団市総合病院で働いている。

 見覚えのあるドアの前に立つ。『院長室』とサインペンで書かれたと思われる

薄いプレートが張ってある。

 僕は一度深呼吸して、二回ドアにノックした。


 どうしてこんな事になったのか、話は一時間前に遡る。



 ~回想~



「ただいまー」

 学校から帰宅し、玄関の戸を開ける。

 返事がないのは知っているけど、これを言うと「今帰ったぜェっ!! イェェェェイ!!」という気分になる。いや流石にそれは大袈裟か。

 この時間は母さんは寝てるので、まず返事はないだろう。

 現在の時刻は午後3時30分を回ったところ。

(さて、今日の夕食は何を作ろうか?まずは冷蔵庫の中の食材を見て、何が作れるか確認してからかな。っと、先に干してある洗濯物を取り込まないと)

 家に入る前にそのまま回れ右をして、庭へと歩く。


 半分ほど洗濯物を回収した時、自宅の方からジリリリリリ、ジリリリリリと黒電話の音が鳴り響いた。

「はいはい、今出ますよー」

 電話を掛けてくる相手には聞こえないだろうけど、癖でつい言ってしまう。

 洗濯物を両手で抱えて急いで玄関に行き、靴を脱ぎ散らかして、洗濯物を廊下の床に放置し黒電話がある居間に入る。

 黒電話が「早く受話器を取るんだ! 間に合わなくなっても知らんぞー!!」と、訴えかけているようにけたたましく騒いでいる。

「はい、高橋です」

 受話器を取ると、あれだけ騒いでた黒電話がピタリと静かになる。

 そして聞き覚えのあるしゃがれた男性の声が聞こえてきた。


「もしもし、高橋さんのお宅じゃな。茂団市総合病院の山口じゃが。洸君かの」

「ええ、そうです。どうしましたか?」

「実は……“また”なんじゃ。洸君にはすまんが、病院に来てくれるかの?」

 茂団市総合病院の院長で心臓外科医の山口先生とは顔見知りだ。

 いつもヨレヨレの白衣を着たヨボヨボ爺のお爺ちゃんで一見頼りなさそうに見えるけど、腕は確からしい。

(“また”って事は…また母さん、何か忘れ物をしたな)

 母さんはおっちょこちょいで、職場の茂団市総合病院に頻繁に私物を置き忘れて

帰ってしまう。

「また……って、今回は一体なんですか?」

 ちなみに前回は眼鏡だ。眼鏡がないとほとんど何も見えないのに、その状態でどうやって自宅に帰ったのか、いやそもそもどうして眼鏡がない事に気付かなかったのか等、考えれば考える程余計に謎が深まる。

 コンタクトレンズを使ってたという線もあるけど、母さんは昔コンタクトレンズを試していた時があって、着けて数分で失くしてたそうだ。それ以来コンタクトレンズは使ってない。

 まぁ、あの眼鏡の話はいいか。今はとっても関係ない。


「財布じゃよ。渚君が来るまで病院で預かっててもいいんじゃが、

 大事な物だし早めに返した方がいいと思っての」

「そうですね、母さんは寝てるので、今から僕が取りに行きます。

 また迷惑を掛けたようで、本当にすみません」

「いやいや、いいんじゃよ。では待ってるからの」

 そう言って電話は切れた。ガチャンと、受話器を置く。

(また、か……)

 癖でため息をつこうと息を吸った時、またまたカリンさんの顔が頭をよぎった。

そして息を飲み込む。

(とりあえず、急いで残った洗濯物を取り込もう)


 5分後、洗濯物を全部取り込んで学生服姿のまま僕は家を出た。



 ~回想終了~



「失礼しました」

 山口先生に頭を下げ、ドアを閉める。

 山口先生は優しいお爺ちゃんで、ひたすら謝る僕にカッカッカッと笑いながら

「気にするな、また来い」と言ってくれた。

(また来いって……患者として来いって事だろうか?遊びに来いって事だろうか?

それともまた母さんの忘れ物を取りに来いって事だろうか……?)

 意味深な台詞に頭を悩ませながら家に帰ろうと廊下を歩いていると、見覚えのある人が部屋から出ていくのが見えた。

 あれは……制服姿の五十嵐さんだ。

(どうしてここに五十嵐さんがいるんだろう……)

 僕が立ち止まり考えてるうちに五十嵐さんは僕には気付かず、廊下の奥を曲がって行ってしまった。


気になり、五十嵐さんが出て行った部屋を見てみる。

誰かの病室だろうか、戸の取っ手の上に『103 五十嵐 美雪』とサインペンで書かれてあるプレートが張られている。


 左耳の傍に僕しか見えない小さな悪魔君が現れて囁く。

(ヘーイ兄貴、気になるんだろ? 覗いちまおうぜ!!)

 今度は右耳の傍にまたまた僕にしか見えない小さな天使君が現れて叫ぶ。

(耳を貸してはいけません! プライバシーの侵害です! 破廉恥です!!)

 両者は僕の目の前で対峙して睨み合う。一揆触発とはこういう状態の事だろう。

 僕は実況に徹する事にして、脳内で試合開始のゴングを鳴らした。


(おーっと悪魔君、いきなり天使君に目突きだぁ! 汚いなさすが悪魔君きたない! だが天使君、予想していたのか首を傾け避ける! そのまま天使君、頭を後ろに下げ思いっきり頭突きだぁ! 悪魔君の顔面に直撃! これは痛い! 天使君、一旦痛みで動けない悪魔君から距離を取り、右腕を広げて走る! これはラリアットだぁ! 悪魔君の首にクリティカルヒットぉ!! 悪魔君倒れる!天使君、悪魔君を抑える! 悪魔君立てない、立てない! これで終わりか、終わりなのかぁぁぁ!? カンカンカン!! 天使君の勝ちだぁぁぁ!! 天使君、おめでとう!! 何か一言お願いしま…おおっとぉ! 天使君が膝をついた! 一体何が…ああー!! 悪魔君、何時の間に立ち上がり、天使君の後ろから金的蹴りだぁ!! これは痛い、これは痛い!! 悪魔君、痛みにうずくまっている天使君を放置して、リングを降りる! 手に取ったのはパイプ椅子! 疲れたのか!? 座りたいのか!? いや、そうじゃない……パイプ椅子を持ってリングに戻る……まさか! まさか!! 両手に構えて…天使君をひたすら殴る! 殴る! 殴りつける!! そんなに殴ったらパイプ椅子が折れちゃうぞ!! いいのか!?いいのかぁ!? 悪魔君、殴り飽きたのかそのまま足元にパイプ椅子を捨てた! 良かった、パイプ椅子は無事だ!! でも天使君はボロボロ!! 虫の息だ!! 悪魔君、倒れている天使君に近づき…おおっと! これはチョークスリーパー!! 天使君、抵抗できない!! 抵抗できない!! 天使君、グッタリして泡を吹いた!! これは悪魔君の勝ちだ!! なんという奇跡の逆転劇!! 悪魔君、何か一言!!)

(超気持ちいい、ほぼイキかけました。これからもみんなに夢を与えるプロレスがしたい)

(ありがとうございました! これで第一回天使君VS悪魔君の試合を終わります!

 実況アナウンサーはこの私、高橋 洸でした!! ではまた会いましょう!!)


 色々あったけど悪魔君が勝ったようだ。

 僕は辺りを見渡し、近くに誰もいない事を確認すると、五十嵐さんが出て行った病室に近づく。

 音を立てないように、そっと戸の取っ手を握り、静かに開ける。

 何か物凄く悪い事をしてるようで、心臓が凄くドクドクいっている。

(いや、これは……どう考えても悪い事だよな……)

 悪い事だと知りながらも、僕はどうしても沸きあがった好奇心を抑えられなかった。

 少しだけ開いた戸の隙間から、中を覗き込む。


 そこには――五十嵐さんをそのまま小さくしたような白いパジャマを着た女の子がベッドに横になっており、上半身を起こして退屈そうな顔をして、窓の外をボーっと見ていた。

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