意識の行方
目の前にはたしかに死んだはずのお爺さんがいた。このシワだらけでにこやかな笑顔、そして白髪。でも不思議と冷静にいられた。ただこの非日常の現実がスッと私のなかに受け入れられていった。
ムツミよ
お爺さんは静かに語りかけた。声もなく、ただ心のなかに直接語りかけてくるようだった。ただ、どうしても私の中に感情というものが湧き上がってこないのだ。
魂っていうのはどこに返っていくか分かるか?死んだ俺なら分かるよ。
生前のままの枯れた優しい声が私の中に伝わる。ただ、唐突に言うものだから、何のことだか分からなかった。仮にこれが自分が作り出したものだったとしても、意識的に理解できる自分と、目の前に現れている風景が、別々に現れているのだ。だとするならば、私は今、冥界の間にいるのだと考えざるを得ない。仮に科学的に証明できないことだろうが、主観的に見れば、たしかに私は今ここでハッキリとその存在を確認したのだから、やはりあると言わなければならない。これが科学の観測・理論主義の大きな欠点なのだ。
そんなことを考えているうちに、お爺さんの目の前に魂が集まり始めて、巨大な渦を作り始めた。何だこれは。グルグルと激しい渦を形成し、激流のように目まぐるしくて、頭がくらくらする。それでもお爺さんはにこやかだった。
魂ってのはね。こうやって一つになってこの穴の中へ閉じていくんだよ。そのなかで一旦一つになって、また散り散りになっていくんだ。
こう言ってお爺さんも渦のなかに消えていった。
寂しさはなかった。ただ、魂があるべき姿に戻っていったんだなぁと妙な清々しさを感じた。お爺さんの成仏をこのような形で見ることができて、僕はただ嬉しかった。死ぬ前のお爺さんは、本当に死ぬのが怖くて怯えていたのは、家族から聞いていたからだ。しかし、この魂の渦がさらに大きくなり僕に襲いかかってきた。うわぁ!とさすがに驚いてしまったが、巨大な渦が僕をつつみ込んだとき、僕は部屋の天井を見ていた。




