現実再び
金が無い・・・
昨日の宇宙的な体験とは対照的に、直視しなければならない現実があった。私はとにかく今日は働かなければならなかった。いつものごとく、日雇い労働を紹介を当てに、まだ昨日の余韻が残った状態でフラフラと街を彷徨う。紹介人は私を心配などしてくれない。ただ紹介料目当てに血眼になって、働き手を狙うハイエナだ。それでも人は働かねばならない。生きる目的なんて分からない。ただ死ぬ理由もないだけ。そんな灰色の日常は、街の彩りを消してしまう。
登録したアプリに示された場所で、人を威圧するように綺麗に整えられたテカテカした髪に、にこやかした顔の男性に、今日もお願いしますねー、とだけ言われて、廃ビルのように裏路地にヒッソリと佇むビルの暗くて狭い廊下の先のいかにも常連しか入らないような昭和崩れのバーの突き当たりを左を曲がり、すぐにでも崩れ落ちそうならせん状の階段を登る。うっすらとたばこの臭いが充満して空気も悪い。
登った先の扉には、紹介してくれたプロジェクトコードが書かれた張り紙が貼ってあったので、紹介人に手渡された入館証を首に掛ける。これを掛けてると、どことなく資本主義の犬のようであると、自分が卑小に感じられてしまう。そんなどうでもいいことにすら闇を感じてしまうのは私の悪癖だ。
私はそんなことを考えていると気が抜けてしまうので、ふはっ!!っと咳払いを一つ入れて、ガチャリと重い扉を開けて入出した。
この扉の中での出来事を語る必要もあるまい。ただ単純に、金のためだけに必死に、定められた期限までに定められたタスクを終わらせる。それだけだ。逆に言うと、やるべきことさえしっかりやってれば、その分の報酬を得られるから、そういう生活は楽なのだ。ただ、楽なだけで良いのだろうか。そのまま資本主義の道具の一部として、錆びるまで働き尽くさねばならないのだろうか。私の中には先のない虚しさの中で、黙々と手を動かした。
・・・これも大局的に見れば戦争の手伝いだ。今、世界中で多発している国家間戦争は宇宙へと向けられつつある。つまり、月資源を奪う戦い、大陸間宇宙ミサイルの迎撃、対地宇宙レーザーのステーション破壊、そのための宇宙を自在に移動できる人型ロボットの製造が早急に求められているのだ。だからここの管理者は血眼になってパソコンに齧りつき、時にはメンバーを怒鳴り散らす。なぜなら成功したら、一部の上層の人間は大きな利益を手にできるからだ。反面失敗すれば、彼らには大きな汚名を着せられることになる。その圧力がこの空間を押しつぶすのだ。・・・ここも軍隊だ。救いがない。戦争に片棒は担ぎたくはないが、やはり仕方のないことだ。
やっとのことで、作業を終わらせた。未だにふらつきが残っているにもかかわらず、あの体験の余韻が私の中で強い欲求へと変わり、今にでも再体験したくなった。おもむろにベンチに座り、あの薬について詳しく書かれた記事を読んでみると、受容体の影響で、しばらく間を空けないと、期待した効果は得られなくなってしまうらしい。・・・もどかしいな金は手に入ったのに。




