異世界との遭遇
ここはどこだ?いや、ここがどこだかはどうでもいい。とにかく、なぜか私はただこの空間を漂っていた。何もしていない。ただここにいるだけで、幸せだ。ただ、ここにあるだけだ。目の前には白い空間だけが広がっていた。ふと、一瞬、実在の外の空明るくて雲が漂う景色が見えた瞬間、私は地球の偉大さを感じるとともに、大気圏を突き抜けていた。ただ地球が目の前で静かに回ってるのを私は傍観者として観察する。
そうだ!ここは天空なのだ。私は神になったのだ。私は今なら何でもわかる。宇宙のすべてが、社会の成り立ちが、人がどうやって生まれたか、どこへ消えていくのか。すべて分かった。私たちはすべてひとつなのだ。なぜこのことに気づかなかったのだ。なぜ、この壁が単なる構造物であったのだと錯覚していたのだろう。そうではない。すべて、私の意識そのものだったんだ。みんな私だったんだ。それに気づいた時点で、私はすべての人々にこの真実を啓示しなければならないという使命感に駆られた。
私はおもむろに投げ出していたスマホを手で探り、掴み取り電源を入れる。まるで焦点が合わず、片目になって、赤い輪郭を帯びたスマホのパスワードを何度か間違えながらなんとかロックを解除し、大学以来の親友であるカナザワのトーク画面にたどり着いた。意識が時々飛ぶので、相手に間違いないか何度も何度も入念に確認し、メッセージを送った。
僕はいま神になっているから何でも答えてくれ。今の私にはすべてが分かる。今メッセージを送らなければ、天空から戻ってしまう。
既読は、すぐに付き、すかさず返信が来る。
なにそれ、どういう意味?
早くしないと天空から切断される。
だったら、早く元に戻って。
あ、もどってきた。
急に、世界が闇のなかに閉じていき、部屋の布団にいた。目眩がひどく起き上がることもままならず、スマホを見るのが急に億劫になって投げ出した。しかし、思考の早まりはまだ残っており、なぜか世界が新しく再構成されたように感じた。投げ出したスマホに再び手を伸ばし、片目で最新のニュースを見ると、そのニュースがまるで人生を揺るがすような恐ろしい出来事を表しているように思えた。一旦ニュースを閉じ、今回の出来事をスマホのノートにメモした。ただ、さっきまでは、すべてが分かった気がしたのに、今思い出そうとしても、何を考えていたのかすらままならない。仕方ないので、私が友達に送ったであろう怪文書の内容自体はかろうじて覚えていたのでそのことを記載した。
しかし、友達に怪文書を送った事自体、自分の中では曖昧になっている。私は何度も何度も、カナザワにだけ、その怪文書を送ったことを確認した。それほどに、今回の摂取物は、現実感を薄れさせるのだ。それが、各地のストリートで、この薬が爆発的に人気になっている所以だ。風邪薬を装っている以上、この薬が消えることはないが、世界で新しい戦争が始まりつつある今、こんな薬を製造する余裕があるものかね。
思考の連鎖が私を襲っているうちに眠ってしまい、気づけば朝になっていた。まだめまいが残るが、久しぶりに清々しい。これもあれのおかげなのかなと思うと、僕はもっとこいつのことを知りたくなった。
・・・友人からは、もし同じのが起きたら、なるべく返信しないでね・・・とたしなめられてしまったことは反省する。




