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7.ソラール王妃、晩餐会で舌鼓を打つ

 晩餐会は豪華だった。見たことのない食材の、知らない調理法だったけれど、どの品もとてもおいしく料理されていた。おもわず口角があがってしまい、ひとくち味わうたびに幸せのため息が出た。


「美味しい?」


 隣に並んでいたセルジュ様に声をかけられて、私はようやく我を取り戻した。


「ええ。こんなに美味しい料理、初めてだわ」

「それはよかった」


 食事に夢中になっていたことが恥ずかしく、耳が熱くなった。けれど、セルジュ様はそんな私をバカにすることなく、料理を食べ進める様をじっと見つめていた。


「そういえば……プリムローズ」

「なんでしょう」

「君、家ではローズって呼ばれてたんだっけ?」

「ええ。すぐに呼びたい時に少し長い名ですから」

「……そう呼んだ方がいい?」

「いえ……如何様にお呼びいただいても、構いませんが……」

「じゃあ、あえて別の呼び方をしようかな。プリムはどうだい」


 珍しい呼び方だった。大概の親しい人々は私をローズと呼ぶ。プリムと呼ばれるのは少し気恥ずかしいような、そわそわするような気持ちになった。


「ど、どうぞ……」


 好きにしてくれ、と頷けば、セルジュ様は嬉しそうに笑みを深めた。


「改めて、よろしく頼むよ。――プリム」


 低い声で囁くように紡がれる言葉が、じわり、と頬を熱くさせる。どうしてこう、いちいち所作が色っぽいんだこの人は! と、叫び出したくなるのをぐっと堪えて、私は切り分けたステーキを口に放り込んだ。美味しい。もぐもぐと照れ隠しに肉を咀嚼すれば、何かが面白かったのか、セルジュ様が肩を震わせて笑いを堪えていた。

 デザートを食べ終わった頃、出された紅茶を飲んでいるセルジュ様の元へ、彼の臣下や貴族たちが訪れた。いろんな方々が、珍しそうに私を眺めにやってきては、この人はどこの誰だという風にセルジュ様が紹介してくださる。その列がようやく途切れ、会もそろそろお開き、という頃。


「セルジュ」

「ああ、マティアス。やっと来たのか」


 背の高い黒髪の殿方が、セルジュ様を呼び捨てになさった。親しい間柄なのだろう、セルジュ陛下の頬が緩んでいる。


「プリム、紹介するね。こいつはマティアス・デシャン。ソラールの近衛騎士隊長で、僕の幼馴染。僕の次に頼りになる男だよ」

「お初にお目にかかります、プリムローズ様。マティアスと申します。御身を護るのが我が勤めです、何なりとお申し付けください」

「まあ、ご丁寧に。よろしくお願いします、マティアス様」


 礼節の保たれた挨拶に、私も立ち上がりカーテシーで返す。ふと視線を感じて隣を見ると、セルジュ様がむす、と顔を顰めていた。どうしたのかしら、と顔を寄せると、低い声が私の耳に吹き込まれる。


「……プリムはもう僕の奥さんなのだから、マテューに惚れてはいけないよ」

「いたしませんっ!」


 反射的にセルジュ様の言葉を否定した。そんなことするわけないでしょう! と叫びそうになるのを堪えて、咳払いで誤魔化す。


「本当? まあ、マティアス相手だったら悪くないけど」

「じょ、冗談でもそんなこと仰らないで……」


 それともソラールでは浮気やら不倫やらは当たり前の文化なのだろうか。冷や汗をかきながらセルジュ様の言葉の意図を伺う。


「嘘だよ。ごめんね、プリム。……続きの話は部屋でしようね」


 揶揄われている、ということに気がつき、私は気がついたらむすっとした顔になっていたらしい。目の前のマティアス様がまあまあ、と私とセルジュ様の間に割って入った。


「申し訳ない、プリムローズ様。こいつ……ごほん。陛下は少し、その……いい性格をしているもので。もし手を焼いたら俺を頼ってください」


 苦労人の顔をしたマティアス様にええ、と頷く。陛下の号令で披露宴を兼ねた晩餐会は終わりを告げ、私はセルジュ様に肩を抱かれて二人の部屋へ向かった。

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