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6.公爵令嬢、結婚する

 王族の結婚式は、来賓へ対して新たな家族をお披露目する、という大事な役割がある。ソラール王家に連なる人々に限らず、近隣諸国からも結婚祝いのためにさまざまな客人がやってくるのだ。本来ならばその準備はソラール王家の王族が指揮を取るはずなのだが。なぜか、全ての指示をセルジュ様がやっていらっしゃる気がする。


「セルジュ様、先ほどからずっと指示を出されておりますが……」

「ああ、ソラールの王族は僕しかいないから」

「……え?」


 さも当然、というように、セルジュ様はきっぱり言い切った。


「流行病でね。僕以外の王族はもう死んでる。だから、君を悪くいう姑もいなければ、僕に何かあった時にカバーしてくれる親戚もいない。結婚すれば、君が、もう一人だけのソラール王族ってことになる」


 あまりの状況に絶句した。ソラールは小国とはいえ侮れない国だ。三方を山に囲まれ、一方は海に面したソラール。仮に戦争などになった時も敵国からは攻め込まれにくいだろうが、それでも国の王族がセルジュ様一人だけなんて、困ることが沢山あるだろう。例えば来賓の対応とか、自分が病に伏せった時とか、他国に攻め込まれた時とか。

 思わず私はセルジュ様の手を取って、真剣に見つめてしまった。


「私……頑張ります」


 何を、とは言わなかった。具体的にセルジュ様が何に困っているかわからなかったから。けれど、人手は少ないより多い方がいい。私にできることがあったら、この人のためになんでもしてあげたい、そんな気持ちだった。何より、ステラノヴァの冷え切った社交界から私を救い出してくれたこの人に、お礼をしてあげたかった。


「ありがとう、プリムローズ嬢。ばたばたしているところを見せて申し訳ない。式は一週間後にする予定だが、構わないね?」

「は、はい。大丈夫です」

「……ステラノヴァからの来賓も来るけれど、僕のそばにいてくれればいいから」


 暗に、アラン様が次期国王として参列すると、セルジュ様は告げていた。けれど、願ったり叶ったりだ。昔の男を振り切るためにも、結婚式で示してやらねばならない。私はこの人を選び、選ばれたのだと。


「望むところですわ、セルジュ様」


 私の心は闘志に燃えていた。拳を握りしめてめらめらと怒りを燃やしていると、セルジュ様がくつくつと笑う。


「っはは。やっぱり君は面白い子だね。その熱意があれば大丈夫だ。……この一週間で、式の模擬練習や来賓への挨拶、式典の段取りとかを叩き込んでくれ」

「承知いたしました」



 春の温かな陽光が、大地を柔らかく照らしている。幸いにも天候に恵まれ、私たちは大聖堂で式を挙げていた。

 来賓の中には確かに、ステラノヴァの現国王であらせられるヘンリー・ノヴァリア国王陛下や、その息子である第一王子のアラン様、第二王子のギルバート様が列席されていた。が、ミリアム・フォレスター伯爵令嬢の姿は見かけなかった。まだ婚約者という立場だから連れてこられなかったのかもしれない。ほっ、と胸を撫で下ろしながら、オレンジ色の絨毯を一歩踏み出す。

 金糸銀糸であしらわれた美しいドレスを纏い、セルジュ陛下の隣を歩んでいく。ああ、本当にこの人の妻になるのだわ、と思うと不思議な気分だった。

 司祭様の前で立ち止まる。婚礼のために必要な言葉をかけていただき、祈りと祝福を授けられた。

 セルジュ様が私の頭にかけられたヴェールを外す。誓いの口付けを、と司祭様が促して、しきたりの通り目を瞑る。柔い唇が私のものに触れる。一瞬の接吻。目を開けば、名残惜しそうな顔をしたセルジュ様が間近にいたけれど――式典の進行のため、真面目な顔をして司祭様の方へ向き直っていた。

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