4.ソラール国王、欲しいものを自覚する
セルジュ・ソラールはグラスに入った酒を傾けながら、夜に瞬く星々を眺めていた。男は星空を好んでいた。太陽の名を冠した国の人間としては異質かもしれないが、静謐な夜に瞬く煌めきの、その儚い、しかし力強い光を愛おしく思う。――あの青い瞳は、それに似ていた。
「可愛かったなあ、プリムローズ嬢」
自分を正しく畏れ、しかし簡単には折れないあの気高さを、セルジュは一瞬で気に入った。一目惚れという言葉もあながち嘘ではない。
「陛下、顔が邪悪ですよ」
さくり、と指摘するのは側近である近衛騎士隊長のマティアスだ。乳兄弟であり、幼馴染でもある彼は、セルジュのことをよくよく理解している。一見穏やかに見えて、その実腹黒く色々な策を巡らす自らの王は、どうやら隣国の星に手を伸ばしたらしい。
「『ステラノヴァの凍て星』だなんて、とんでもない才媛だそうじゃないですか。……壊すなよ、セルジュ」
臣下の顔から、世話焼き幼馴染の顔がのぞく。
「っはは、人聞きの悪い。僕をなんだと思っているんだ、マティアス。大事にするとも」
マティアスはため息をついた。セルジュ・ソラールはとても"いい性格"をしている。浮き名を流すことはあれど、結婚したいと言う国内の貴族令嬢は皆無だった。そのために婚期を逃している。そうして結婚しないことを、男色家だ、幼女趣味だと悪評を流されているのを本人は意にも介していなかった。実際は、彼が心から惚れ込むような令嬢が国内にいなかったのが原因だったのだが――その問題を解決してしまう少女が、とうとう現れてしまった。
「好きでもない、欲しくもないものを掴まされても、僕は大事にしてやれない。なら、欲しいものを手にした方が互いに幸せだ。そうだろう? ……まあ、本当に彼女がこの国に来てくれる保証もないが」
浮かれた口調で、しかし冷静に現実を見据えている。
「お前、ステラノヴァとやり合う気じゃないだろうな」
「まさか。ノヴァリア王家には世話になっているから、そんなことはしないよ」
セルジュはくるくると掌中のグラスを回す。ややオレンジがかったシャンパンの中で、泡がふつふつと浮かび上がる。
「しかし、アランのやつ、まんまと変な女にひっかかりやがって。あいつは小さい頃から女を見る目が本当にない。……まあ、そのおかげでプリムローズ嬢が自由になったのは喜ぶべきことだが……」
「ああ、例のフォレスター伯爵家、だったか。何かあるのか」
「まあね。きな臭い噂は色々耳に入る」
グラスを傾けシャンパンを煽る。体は酒のせいで暑くなったが、セルジュの思考はどこまでも怜悧に研ぎ澄まされていた。
「ただ、その辺りは追々、ね。まずはプリムローズ嬢が来てくれないことには」
「嫁に迎えるからには、ちゃんと守ってやれよ」
「勿論。心外だな、女を守れない不甲斐ない国王だと思っているの、マテュー」
「お前ならやりかねん」
ばっさり切って捨てた。小気味良いやり取りにくつくつと喉を鳴らして――セルジュは夜空で青く輝く星を仰ぎ見た。
「ああ――本当に、綺麗だ」




