表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

36/39

36.元公爵令嬢、罪を暴く③

「以上が、私のお伝えしたかった三つの罪。そして、これらの罪の背後にいる男こそ、私を攫い、閉じ込め、殺そうとした者」


 淡々と、事実だけ伝えようとするけれど、どうしたって声が震えてしまう。セルジュが、ふらつく体をそっと支えてくれた。射抜くように、強く視線を送って。私は男の名を呼んだ。


「そうですわね、ジェラルド・フォレスター」


 もはや敬称すら付けず、私は毅然とフォレスター伯と対峙する。くつくつ、と喉奥を鳴らしてジェラルドは笑った。玉座の隣に控えていた彼が、階段を降りて私に近寄る。肩に置かれたセルジュの手が強張った。


「……なるほど、全てがフォレスター家の陰謀だと、プリムローズ様は言いたいようだ。だが、私が貴女を攫う理由がないでしょう」


 周りの貴族を見渡して、ジェラルドは首を傾げてみせる。私は手にした扇子を閉じて、ジェラルドに突きつける。


「この宝石を手に入れたいからだと、あの牢屋であなたは言った。『至上の青(ザ・ブルー)』があれば、『歪曲の赤(ルージュ)』の効果を延長させることができたのでしょう? フォレスターの支配を続けるために、あなたは『至上の青』を手にしたかった」


 『至上の青』がどういう仕組みか、私にはわからない。でも、殺意や悪意を跳ね返していたのは、当事者だからわかる。宝石だけを手に入れようとして、失敗して。私ごと攫った。だけれど、私が生きている限りは手出しができない。だから、飢えさせて殺そうとした。


「でも、あの宝石は私が砕きました。あなたの、いいえ、フォレスター家の企みはもうおしまいです」


 静かに言い放つ。

 罪を指摘し終えた私を見て、ジェラルドはあろうことか――大きく口を開けて、嗤った。声が、大広間に響き渡る。


「随分とお綺麗な言葉を並び立てるのだな、アステールの裔」


 這うような低い声で、ジェラルドが広間中の貴族に語りかける。どこか蠱惑的な眼差しで、フォレスター伯はじっとりと一人一人、彼の掌中に収めてきた貴族を見つめていく。さながら、呪いを纏わりつかせるように。


「我が家門が、どれだけこの国に貢献したと思っている?」


 肌が粟立つ。けれど、私は目を背けない。ジェラルドは最後、真顔に戻って私を睨め付けた。紫色と視線が交錯する。


「ああ、そうだ。全て認めよう。王位簒奪、誘拐、殺人。その他様々な罪と呼ばれる行為を、()()()はやってきた」


 声も出せぬまま、皆が彼の声に耳を傾ける。華やかなりし社交界、その裏側を担い続けた末裔が、夜会の明かりでその正体を表す。


「貴方がしているのは越権行為だわ。国を私物化しているのも同然よ」

「王がただ玉座に座るだけでは、国は立ち行かぬ。時には手段を選ばずに解決せざるを得ない事態もあった。だが、どの家門も――王さえも。己の手を汚すことを嫌がった。だから、全てを行う我々が、執政に深く携わった。それは罪か? プリムローズ」


 毒のように胸に沁み込んでくる言葉はけれど、誰も拒み切ることができない。必要悪だろう、とジェラルドは微笑んでさえみせる。私は静かに頭を横に振った。


「だからって、誰かを踏みつけにしたり、民を蔑ろにすることが許されるわけではないでしょう。目的のためなら、手段をも問わないと?」


 何を当たり前だ、とでも言うように、ジェラルドは鼻で笑う。


「無論だ。この国はそうやって、栄華を極めてきた。そのための犠牲など、微々たるもの」


 大仰に両腕を広げて、支配者のようにフォレスター伯爵は高らかに宣う。


「民は我々が管理し、国の行先は我々が舵を取ろう。()()以外は何も考えずとも、ただ運命に身を委ねればいい」


 誰もが言葉を失った。ヘンリー王を含め、玉座の隣に影のように佇んでいた男を、高位貴族すら咎められない。彼のしてきたことは確かに罪に塗れていたけれど、誰も糾弾できない程に、この国に根深く影響してしまっているのだ。水面下で行われていた、フォレスター家との間で発生した収賄、保身や利得。甘い言葉に唆された経験に、誰しも心当たりがあるのだろう。


「理想だけでは国家など成り立たぬと、お前もわかっているはずだ。プリムローズ。……さあ、その美しい輝きを、『至上の青』を渡しなさい。私が、お前達を導いてみせる」


 ジェラルドは恍惚と、私の手にする『至上の青』へ手を伸ばす。ああ、この男は、どうしようもなく破綻している。

 思わず一歩後ずさるけれど、男は歩みを止めない。セルジュが腰の柄に手をかける。どうしよう、二人を止めきれない。祈るように『至上の青』を握りしめた時。


――握った手から、青い光が溢れ出す。


「触れるな、簒奪者」


 不意に、声が響いた。獣のように低く唸る声は、セルジュのものではない。日記を()()時に聞いた声。


「プリムローズ、よくやった」


 幻影なのだろう、体はうっすら透き通っているけれど。その姿を見て、誰もが息を飲んだ。


「フレデリック様……」


 百年前のステラノヴァ国王、フレデリック・アステールが、ジェラルドの前に立ちはだかっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ