表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
旅する不死者は昼も歩く ――死ぬのは二回で十分だ。三度目の人生は、七千歳(ショタ姿)の保護者と行く、最強吸血鬼の旅!――  作者: 真野真名
第七章 王都への道編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

97/101

96、白い夜の朝、訊かれる側


95、王都ダイベイドアで待つもの

一部修正しました。




 いつの間にか、わたしはなかなか深く眠っていたらしい。


 目を開けた時には、もう窓の外がしっかり明るくなっていた。

 昨日の夜、あれだけ変なことがあったのに、寝つくとあっさり眠ってしまうのは、たぶんわたしのいいところでもあり、まずいところでもある。


 身支度を整えて、食堂に下りる。


 その時点で、空気がいつもと違うのに気づいた。


 アリアさんも、ベルロウさんも、ノッピーニオさんも、すでに食堂のテーブルに着いていた。


 まあ、それ自体はおかしくない。

 毎朝アリアさんの方が早起きだし、ベルロウさんも宿の朝はけっこう早い。


 問題は、誰もまだ朝ご飯を食べていない、ということだった。


 アリアさんは茶を一口含んだ姿勢のまま動かない。

 ベルロウさんは机に頬杖をついて、こちらをまっすぐ見ている。

 ノッピーニオさんは腕を組んだまま、ほとんど置物みたいに座っていた。


 完全に、待ち構えられている。


「……おは、よう?」


 恐る恐る言ってみる。


 ベルロウさんが、ぴくりと耳を動かした。


「あーしから一個だけ聞いていい? 昨日の、あれ、なに?」


 即だった。


 挨拶を返す気もないらしい。


「えーと……朝ごはんの前?」


「朝ごはんの前」


 アリアさんがすっぱり言った。


 わたしは無言で椅子を引いて、座る。


 すばるがそのあとから何食わぬ顔で下りてきて、当然みたいな顔でわたしの隣に座った。


「あんたも、朝ごはんの前」


 アリアさんが言う前に、ベルロウさんが言った。


「異論はないだろ」


「ない」


 統が短く答える。

 ほんとうにこいつ、こういう時の判断だけは早い。



 アリアさんは、しばらく茶を一口飲んでから、ようやく口を開いた。


「いい? 私たち、別に責めたいわけじゃないの。それだけは先に言っとく」


「うん」


「でも、昨日のはちょっと、流せないわよ」


 そりゃそうだろうな、と思う。


 わたしだって逆の立場だったら絶対同じことを言う。


「順番に聞いていい?」


「……どうぞ」


「一個目。あの男、誰?」


「アシュドラ」


「名乗ってたのは知ってる。何者かよ」


「……えーと」


「二個目。あなたたちと、どういう関係なの」


「三個目。なぜあいつは、あなたを名前で呼んだ」


「四個目」


 アリアさんは、ほんの一拍だけ間を置いた。


 その視線が、わたしから静かに統に流れる。


「統。あなたは、何者なの」


 来た。


 わたしの中で、ぎゅっと何かが詰まった。


 ベルロウさんが、机に頬杖をついたまま、ゆるい声で続ける。


「いやー、あーしらほんと、ずっと気になってたんだぜ? お前さん、十歳ぐらいに見えるくせに、力も、頭も、マジックバッグじゃ説明つかない規格外の【収納】、人間の子どもじゃねえだろ。最初は獣人かエルフの血が混じってんのかと思ってたんだけど」


 ベルロウさんは、にっと笑った。


「だんだん、それじゃ説明つかなくなってきてな」


 アリアさんも頷く。


「噂で聞く“魔族”の話、知ってる? 最近、王都の方でも少し出始めてるの」


「……」


「もちろん、決めつけてるわけじゃないわよ。ただ、あんたが普通じゃないってことくらいは、私たちも見ればわかるの」


 空気が、わたしの方ではなく、統の方を向いた。


 わたしはちらりと隣を見た。


 統は、相変わらず表情を動かしていなかった。

 手の中の杯を、ただ淡々と支えている。


「私の話は」


 統は短く言った。


「あとでいい」


「あとで?」


「いま必要なのは、七色どれみの話だ」


「……便利な言い方ね」


「事実だ」


 アリアさんはしばらく統を見ていた。


 たぶん、ここで押しても答えないことを、すぐに見抜いたのだと思う。


 深いため息ひとつ。


「いいわ。じゃあ、ひとまずドレミの話から」


 わたしは、深く息を吸った。


 ここから先は、たぶんちゃんと話さないといけない。


 でも、何を、どこまで話すか。

 線を引かなきゃいけない。


 わたしはわたしのことを話す。

 統のことは、統が話す。


 そう決めて、口を開いた。


「わたし、たぶん、この世界の人間じゃない」


 最初に言ったとき、自分の声が少しだけ震えた。


 アリアさんの目が、わずかに細くなる。


「……というと?」


「ぜんぜん別の世界から、来たの」


 アリアさんとベルロウさんは、視線を合わせなかった。

 でも、ふたりの“反応のしなさ”が、すごく揃っていた。


 驚いて固まったというより、何かを内側で確かめている時の沈黙だった。


「気づいたら、変な草っ原に倒れてた。最初は何が何だかわからなくて、しばらくしてから、ここがわたしの知ってる世界じゃないって気づいた」


「……うん」


「そのあと、魔獣に襲われて、わりとあっさり死にかけた」


「あっさりは余計じゃないかしら」


「実感の話なの」


 アリアさんが、ほんの少しだけ口元を緩めた。

 でも、目は緩んでいない。


「で、統と会ったの」


「あんたを助けたって聞いたわね、いつだったか」


「うん。たぶん、半分くらいわたし死んでた。腕も足も、もう普通じゃ治る状態じゃなかった」


「……ふん。それで、こうして座ってるわけだ」


 ベルロウさんが目を細める。


「うん」


「やり方を聞いていい?」


「……」


 わたしは少しだけ言いよどんだ。


「生命力を、分けてもらった、みたい。詳しい仕組みは……正直、わたしも全部は理解してない」


 たぶん、これ以上の説明は、わたしの口からはまだ無理だ。


 アリアさんは、それ以上は突っ込まなかった。


「で、スバルも同じ世界の人間なの?」


「うん。少なくとも、わたしと同じ世界に居たことはある人」


「同郷ね」


「だと、思う」


 ここで、わたしは自分でも少しだけ意外なほど、はっきり言った。


「わたしから先に言わせて。アシュドラ、あいつね、わたしたちと同じ世界の住人じゃないの」


 アリアさんが、片眉を上げた。


「あいつ自身は、こっちの世界の生まれだと思う。少なくとも、わたしたちは知らない。出会ったのもこの世界の中だし、向こうがわたしのことを勝手に勘違いしてるだけ」


「勝手に?」


「うん。向こうは、わたしを“自分の身内”だと思い込んでる。同じ血の側、みたいな感じで」


「で、実際は」


「違うのよ」


 わたしは少しむっとして言った。


「ぜんぜん違う。わたし、あいつとどっかでつるんでたとか、そういう関係じゃないの。ダイスロープで偶然鉢合わせて、向こうがひとりで盛り上がって、こっちに迷惑かけてきてるだけ」


「シンパシーの押し売りね」


「ものすごい大迷惑」


 ベルロウさんが、ぷっと笑った。


「お前、それを今、いちばん力を込めて言ったろ」


「だってほんとに迷惑なんだもん」


「アシュドラ、聞いたら泣くわよ」


「泣いてほしいわよ」


 その会話で、空気がほんのちょっとだけ緩む。

 でも、本題はここで終わりじゃない。


「自分の身体のこと、少し聞いていい?」


 アリアさんが声のトーンを落とした。


「うん」


「あんた、普通の人間じゃないっていうのは、自覚があるのよね」


「ある」


「どう違うの」


 わたしは、できるだけ正確に答えようとした。


「もの、あんまり食べなくても動ける。喉も、そんなには渇かない。傷の治りが、わたしの知ってる人間より速い」


「うん」


「夜が、よく見えすぎる」


「ふん」


「あと、力が、たまにバカみたいに出る」


 ベルロウさんが、また顔をしかめた。


「あーしの鼻、ずっと、お前から濁った匂いがしてるって言ってただろ」


「うん」


「あれだな」


「たぶん」


 わたしは、少しだけ視線を落とした。


「自分の世界に居たころは、こんなふうじゃなかった。だからこれが、異世界人だからこうなったのか、それとも、わたしが個別に特別なのか、正直、自分でもわかってない」


 最後の一言を出すのは、思ったよりずっと勇気が要った。


 でも、全くの嘘より、その方が正しい気がした。


「わからない、を、わからないって言ってくれるのは、こっちとしてはありがたいわ」


 アリアさんは、静かにそう言った。


「全部嘘で固められるより、ずっといい」


 ……たぶん、見抜くつもりだった、ということなんだろう。

 その怖さを、わたしは飲み込んだ。


 アリアさんは、それから統を見た。


「で。あんたは」


「私の話は、いまは要らない」


「これだけは聞かせて」


 アリアさんは、声をかぶせるように言った。


「あの男――アシュドラと、あんたは何なの」


 統はわずかに目を細めた。




第四章 テンペタ・フロップス編まで細部の修正完了。

追って修正していきます。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ