↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
旅する不死者は昼も歩く ――死ぬのは二回で十分だ。三度目の人生は、七千歳(ショタ姿)の保護者と行く、最強吸血鬼の旅!――  作者: 真野真名
第七章 王都への道編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

104/107

103、見張る側、見られる側




 朝食の席で、アリアさんは昨日より少し早く口を開いた。


「昨日の件を、もう一度整理するわ」


 わたしは焼きたてのパンをちぎりながら、顔を上げた。


 食堂の奥には、わたしたち五人が集まっている。


 アリアさん。

 ベルロウさん。

 ノッピーニオさん。

 統(すばる)。

 そして、わたし。


 昨日までは、ただの旅仲間だったはずなのに、今朝の空気は、なんだか小さな調査隊の作戦会議みたいだった。


「まず、単独行動は禁止。ドレミはベルロウと組む。危険と判断した場合は、必ずスバルの判断を仰ぐこと」


「はい」


「それから、今日の目的は集会所の内情を探ることじゃない。外側を見る」


「外側?」


「位置、出入りする人数、時間帯、運び込まれる荷物。あとは近所の人たちが、あそこをどう見ているか」


 アリアさんが指を一本ずつ折っていく。


「建物の中には入らない。信徒にも深入りしない。こちらから接触する必要もない。まずは、向こうが普段どう動いているのかを知る」


「なるほど」


 昨日、白布の女性に声をかけられたことを思い出す。


 あちらから接触してきた以上、今日はこっちから不用意に動く必要はない。


「ノッピーニオは、向かいの宿から定点観察」


 ノッピーニオさんが、黙って一度だけ頷いた。


「半日くらい同じ場所から見てもらう。人の出入りを数えて。可能なら、荷物の種類も」


 再び頷く。


「統は?」


「私は街の魔力線を見る」


「またそれ?」


「集会所そのものだけでなく、周囲の地下構造も確認する。昨日の時点で、いくつか気になる流れがあった」


「……それ、最初から言ってくれてもよかったんじゃない?」


「必要がなかった」


「必要、昨日からあったと思うんだけど」


「今日はある」


「どういう基準なのよ」


 統は答えなかった。


 アリアさんが苦笑する。


「スバルはスバルでいいわ。あなたが理解しようとすると話が長くなるから」


「ひどい」


「私は別ルートから噂を集める。昨日の話を聞いて、いくつか当たってみたいところがあるの」


 つまり。


 七色+ベルロウ。

 ノッピーニオ。

 統。

 アリア。


 四方向から同じものを見る。


「……わたしたち、めちゃくちゃ組織的になってない?」


 思わず呟くと、ベルロウさんがパンを齧りながら鼻を鳴らした。


「あーしら、元々ちゃんと動く連中だぞ」


「へえ」


「その『へえ』なんだよ」


「いや、なんか意外で」


「失礼だな、お前」


 ベルロウさんが尻尾を揺らす。


「こっちは旅の途中でも、危険な街に入ったら役割分担くらいするんだよ」


「そうだったっけ?」


「お前が覚えてねえだけだ」


「……そうだったの?」


「知らん」


「どっちなのよ」


 アリアさんが笑った。


 その横で、統が椅子から立ち上がる。


「私は先に出る」


「え、もう?」


「人の流れが変わる前に見ておきたい」


 統はそのまま食堂を出ようとした。


 わたしは慌てて声をかける。


「ちょっと待って。昨日、わたしの動きに合わせるって言ってたじゃない」


「言った」


「じゃあ今日は一緒に動くんじゃ?」


「同行するとは言っていない」


「……屁理屈じゃない?」


「違う」


 統は振り返った。


「合わせるだけだ」


「それ、一緒に動くのとどう違うのよ」


「必要な場所に必要な時にいる」


「余計分からない」


 統は少しだけ考えた。


「気配、半分を忘れるな」


「うん」


「忘れるな」


「二回言わないでよ」


「事実の重要度が高い」


「雑!」


 ベルロウさんが吹き出した。


「ははっ。朝からいいな、お前ら」


「よくない!」


 統はそれ以上何も言わず、食堂を出ていった。


 わたしはその背中を見送りながら、なんとなく思った。


 昨日までなら、統はわたしの前を歩いていた。


 今日は違う。


 姿が見えなくても、たぶん、どこかでわたしの動きを見ている。

 それが妙に心強くて、同時に、少しだけ緊張した。




 集会所の場所は、昨日の情報を合わせると、意外なほど早く絞り込めた。


 平民街の北東寄り。


 大通りから少し外れた場所に、その建物はあった。


 以前は小さな宿だったらしい。今は白い壁がきれいに塗り直され、入口には木製の看板が掛かっている。


 そこには、柔らかな字体で「集いの家」と書かれていた。


 玄関脇には小さな奉仕箱が置かれ、子どもが座れるくらいの低いベンチまである。

 開け放たれた窓からは、朝粥の匂いが流れてきた。


 わたしは思わず足を緩めた。


「……本当に、良いこともしてるんだ」


「ああ」


 ベルロウさんは、少し離れたところから建物を眺めている。


「だから厄介なんだよ」


「どうして?」


「悪いことしかしてねえ組織なら、話は簡単だ。誰かが証拠を掴んで、潰せばいい」


 ベルロウさんは、顎をわずかに上げた。


「でも、ここは違う。腹を空かせた奴に飯を食わせて、身寄りのない子どもを引き取って、病人の面倒まで見てる。助かった人間が実際にいるなら、そいつらにとっちゃ善人だ」


「……だから、簡単には悪者にできない」


「そういうことだ」


 わたしはもう一度、集会所を見た。


 入口から出てきた女性が、近所の老人に笑顔で挨拶をしている。

 その光景だけを見れば、本当に感じのいい施設だった。

 だからこそ、昨日の少女の顔が頭から離れなかった。




 わたしとベルロウさんは、集会所を直接見張っているようには見えないよう、少し離れた通りを歩いていた。


「りんご買う?」


「買う」


「即答なんだ」


「朝から歩いてるからな」


 ベルロウさんは露店で果物を二つ買い、そのまま店主と世間話を始めた。

 わたしは隣で笑っているだけ。

 こういう時、ベルロウさんは妙に自然だった。


「そういや、あそこの『集いの家』って、いつからあったんだ?」


「ああ、あそこかい?」


 店主は気軽に答えた。


「去年くらいじゃなかったかね。前は宿だったんだよ」


「評判いいみたいだな」


「そりゃそうさ。朝飯を食わせてくれるんだから」


「子どももいるよな」


「身寄りのない子を預かってるんだってさ。うちの隣の子も世話になってるよ」


「へえ」


 ベルロウさんは、それ以上深く聞かなかった。


 果物を受け取って歩き出す。



 少し進んでから、わたしが小声で尋ねた。


「どうだった?」


「嘘はついてねえな」


「分かるの?」


「匂いと声でだいたいな」


「便利ね、それ」


「便利で済ませんな。あーしの仕事だ」


「はいはい」


 少し先で、今度は洗濯物を干している女性に声をかけた。


 こちらも、最初に出てきた話は同じだった。


 粥をくれる。

 子どもの面倒を見てくれる。

 困った時には助けてくれる。


 けれど、話が少し深くなったところで、女性の声が小さくなった。


「ただね……最近、夜にも人が出入りしてるらしいよ」


「夜に?」


 ベルロウさんが聞き返す。


「この辺、夜は木戸が閉まるだろ?」


「そうなんだけどね」


 女性は周囲を気にするように辺りを見た。


「たまに、あそこの人たちだけは出ていくんだって」


「許可を持ってるとか?」


「さあ。そこまでは知らないよ」


 女性は肩をすくめた。


「ただ、近所じゃ怪しいって話になってる」


 その場を離れてから、わたしはベルロウさんに言った。


「夜に動けるってことは、どこかと繋がってるってことだよね」


「そういうことだ」


「衛兵か、神殿か、それとももっと上か」


「そこまではまだ分からねえ」


 ベルロウさんは、集会所の方へちらりと目を向けた。


「だから、今日のところは見るだけだ」




 ***

 side ノッピーニオ



 向かいの宿の二階。


 窓際の席に座ったノッピーニオは、朝からほとんど動かなかった。


 正確には、動いていないように見えるだけだった。


 朝のうちは、集会所から出てくる人間の数を記録した。


 粥を求めてやってくるのは、貧しい家族が多い。老人もいる。怪我をした男もいた。


 昼になると、今度は白布をまとった信徒が集まり始めた。

 数人ずつ時間をずらして入り、一定の時間が経つと出ていく。

 その間にも、何人かの子どもが建物の中へ入っていった。


 午後になると、子どもたちが何人か外へ出てきた。


 ただし、ノッピーニオが記録した人数は、入った人数より少なかった。


 最初は数え間違いかと思った。しかし、同じことが二度、三度と続いた。


 夕方には、大きな木箱を積んだ荷車が集会所の裏手へ入っていった。

 箱は運び出されたのではない。運び込まれた。


 夜になると、白布をまとった年配の男が二度、建物を出入りした。

 二度目に出てきた時、男は神殿のある方角へ歩いていった。


 ノッピーニオは最後に、帳面へ一行だけ書き加えた。


 入る人数と、出る人数が合わない。




 ***

 side 統(すばる)




 その頃、統は街の別の場所にいた。



 統は集会所そのものを見張る代わりに、王都の地下を走る魔力の流れを追っていた。


 古い街には、建物だけでなく魔力の通り道にも歴史が残る。


 新しい建物の下に古い基礎があり、そのさらに下に、以前の街の構造が眠っている。


 統は集会所の周囲を一周したところで、足を止めた。

 魔力の流れが、地面の下でわずかに歪んでいる。


 そこから辿っていくと、集会所の地下には、古い水路跡へ続く空間があった。


 さらにその水路は、王都の地下構造の一部と繋がっている。

 王城方面へ伸びる古い系統と、どこかで接続している可能性もあった。


 統はしばらくそこを確認したあと、それ以上は追わなかった。


 分かったことを、すぐ誰かに伝える必要はない。

 今の段階で七色に話せば、あいつは間違いなく動く。


 そして、あいつが動けば、向こうも動く。

 統は地面を一度見てから、何事もなかったように歩き出した。


 繋がっている。


 だが、まだ言わない。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。