1 Nov. 114024「BEAUTIFUL DAYS」
1 Nov. 24 -4×4砂漠-
「まさか、少年に出会えるとはな……」
とても懐かしい声。
「あれから探したんだ。まさか、こんなところで会うとは思わなかったが」
ボクたちを氷の中から引き出してくれたのは、気象学者だった。
傍らに停まっていたスクーターのシートに、ボクを座らせてくれる。
シートは包み込むようにボクの身体を支える。
ボクはもう自分で座ることができない、喋ることもできない、アラームも鳴らせない。
カラハーイは飛ぼうとして、自分の羽根が無くなっていたことを思い出す。
「本当にあの頃のままだな。俺もレディも、世代を重ねて五十台も身体を更新しているんだ」
気象学者はそう言うとカラハーイを手に乗せて、スクーターに掛けてある古いラジオの上に座らせる。
『ありがとう』
カラハーイは、ラジオのスピーカーでボクの声を再生した。
気象学者は腕を広げて、ボクとカラハーイに語りかける。
「ほら、周りを見てごらん。プラスチックの砂漠はもう無くなっている。少年の後に続いた歴代のメンテナーたちが頑張ったんだ」
プラスチックもコンクリートも、全て土に還っていた。
青い空の下、大地はどこまでも広がっている。
「夜明けを記念する大切な日に、古臭い救難信号が出るなんて、絶対に碌なことにならないってレディは言ったんだが」
スクーターは、そんなこと言わないでよとライトをパチクリとさせる。
気象学者はボクの顔を覗き込む。
「本当に来てよかった。また少年と会えたのは運命かもしれないな」
(違うよ)
気象学者も世代を重ねながら、ボクと同じ夜明けを目指していたんだ。
だから、同じところに行き着いた。これは必然。
今までに出会った沢山の人たちの協力のおかげ、積み重なった奇跡のおかげ。
気象学者のヘリコプターの羽根が揺れる。
(ジルゼさん……)
スクーターが「るるるる」と音を立てる。
(やあ、バイク)
カラハーイがしゃらしゃらと跳ねる。
(……サティ)
カラハーイが、ボクの声を再生する。
『ボクを愛してくれた人たちへ ボクが大好きな人たちへ ボクの大事なこの星へ 本当にありがとう』
「少年が十万年前に遺してくれた言葉だな。世代がどれだけ変わっても忘れないよ」
みんな、みんなありがとう。
(ボクはとっても幸せだった)
やがて、瞳の焦点調節機能が動かなくなり、ボクは全ての機能を停止した。
気象学者が、ボクのまぶたを優しく伏せた。
11 Apr. 114026 -地球-
明るい青空の下、僕たちは大地を耕して種を蒔く。
穏やかに照らす太陽の下で、凍りついていた大地は少しずつ潤いを取り戻し、黄土色の山並みが並ぶ。
まだまだ気温は低いが、太陽に熱せられた氷がほんの少し溶け、あちこちで冷気に強いコケ植物が深緑色の円を描いている。
「おーい、バナナ。サボってないで手伝ってよ」
ぼーっと白い雲を眺めているパートナーのアンドロイドに声をかける。
「サボってなんて、いませんわ」
バナナはいそいそと立ち上がった。
僕たちメンテナーの仕事は、まだまだ終わらない。緑と青の地球に戻すため、草木を植え続ける。
陽が傾いてきた。空が朱く染まる。
僕はこの色が好きだ。
その場に立ち尽くして、空を眺めていた。
「そろそろ帰りましょう」
バナナに急かされて片付けると、コロニーへ戻る。
その道の途中で。
「ねえ、ちょっと寄り道」
「いつもの所ね」
僕たちは、丘の上に建てられた記念碑の前にやってきた。
この下には一台のアンドロイドが眠っている。
僕は鞄からアネモネのドライフラワーを取り出した。
バナナに半分を渡し、二人で花を手向ける。
これが僕の素敵な日課の一つだ。
〜おしまい〜
「ボク」のお話はこれで幕を閉じます。
長い時間をかけてお読みいただき、心から感謝申し上げます。
皆さんのご感想は、次の物語への大きな力になります。よろしければ、ぜひお聞かせください。




