31 Oct. 114024「希望の光」
31 Oct. 24 -???-
カチッ ピピッ
設定しておいたタイマーが作動し、十万年ぶりにボクは起動した。
今日は夜明けの日。
研究者の予測とズレていなければ、あと半日もすれば、ダイソンスフィアに隠されていた太陽が姿を見せ、地球を照らす。
頭の中で一つだけ、アラートが鳴る。
鳴っているのは、残りのバッテリー量がごく僅かだという警告。
ボクが目覚めることができたのは奇跡だ。よく十万年もの間、バッテリーが残っていてくれた。
今生きているバッテリーは、義足の中に入れた一つだけ。千年も眠っていたバイクが、滞りなく起動することができたのと同じ、最高のバッテリーだ。
ボクはまぶたを開く。良かった、まだ動かせる。
でも。
真っ暗だ。
何の音もしない。
どちらが上で下かも分からない。
(ボクはどうなっているんだろう。)
光が欲しい。
目や耳は本当に機能しているのだろうか。
少しでも情報が欲しい。
腕……ダメだ、動かない。
声は……出せない。
他のセンサー系統も通電しない。
救難信号……アクセスできない。
十万年。何があってもおかしくない。
あのまま、泉の中に沈んでいるのだろうか。
地震が起きて、地面の割れ目に落ちてしまっていないか。
近くで火山が噴火して、火山灰に埋もれているのかもしれない。
奇跡的に目覚めたのに、良くない考えばかりが浮かんでくる。
人類は滅亡していないだろうか。
地球が爆発してボクが宇宙を漂っているとか。
太陽はもう無いとか……。
ぽうっと明るくなった。
本当にちょっとした明かりだ。ほんのり青い。
何が光っているんだろう。光る物が思いつかない。
でもそのおかげで、ヘルメットの中が見えた。
ボクの視力は問題なさそうだ。
この丈夫な潜水服のヘルメットは、十万年を耐えてくれた。
ただ、ヘルメットの窓は細かいヒビだらけになっていて、その向こうは真っ黒。
(そとをみたいな)
なんとか片腕だけでも動いてくれ。このヘルメットが取れると良いんだけど。今は、腕が繋がっているのかすら分からない。
仕方ないか。
十万年も経って、起動できただけでも奇跡なんだ。
温度がマイナスだったのと、潜水服が密閉を保ってくれたから、ボクの腐食は最小限で済んだのだろう。
太陽が出れば、この真っ暗なヒビ割れの向こうが明るくなるかもしれない。
直接太陽を見られなくても、それで十分じゃないか。
(やだよ。ボクは、よあけをみるんだ)
……そうだ。潜水服にはカラハーイも一緒に入った。
見える範囲には居ない。眠っている間に、どこかに潜り込んじゃったのかな。ボクよりも小さいから、劣化の影響は大きいはず。
頭の後ろで潰れてなければ良いんだけど。
(カラハーイ……)
呼ぼうにも、声は出ない。
カラハーイなら、ボクよりも省エネで動けるから、いろいろとできるかも。
ボクがこのまま動けないのなら、残ったバッテリーを全て彼女にあげて、代わりに夜明けを見てもらおう。
その時、ゴソゴソと音がする。
ボクの耳はまだ機能しているようだ。
何かが、ボクの耳に押し込まれる。
『お兄ちゃん』
微かな声。
イヤホンも劣化して、小さな音しか出せなくなっている。
カラハーイが顔を出す。
その瞳の僅かな光が、この狭いヘルメットの中を照らしていた。
コバルト色の羽根は、根元だけを残して無くなっていた。それでも、しゃららと羽ばたくと、希望の光を青く反射してゆらゆらと揺れる。
彼女はボクの顔を見つめる。
『まるで、眠れる森の』『王子様ね』
でも、彼女に応えたくても、ボクはまぶたしか動かせない。その動きすら省エネのために最小限にしないと。
『キスしたら』『目覚めるかしら』
その言葉に、ボクは思わず瞬きをした。
『おはよ』『お兄ちゃん』




