7 Sep. 14129「the end of Summer」
7 Sep. 14129 -4×4砂漠-
僕は一人で、いつもの日課に出かける。
プラスチックの砂漠の上を、ボードに乗って滑るように走っていく。
砂丘の合間に青い泉を見つけた。
青いね、とても強いアルカリだ。これを中和するのが僕の仕事。
他にもワームの数を管理したり発掘物を報告したりと、この星のメンテナーの仕事は多岐にわたる。
青い泉の縁に立ち、水筒の蓋を開ける。ツンとした酸の強い匂いが立ち昇ってくる。
中の液体はpHがマイナスの超酸だ。主な成分は塩酸と炭酸。中和した時に汚染物質がでにくい酸を使っているらしいけど、そこまで強力な酸が作れる理由までは知らない。
泡立つ液体を泉に注ぐと、注いだところが一瞬青色から黄色に変わる。黄色は混ざって緑色になり、広がって青色に同化していく。
前のメンテナーのボクが使っていた赤い液体よりも、中和の作業は格段に早くなった。
「今頃、ボクは何してるのかな」
僕は空を見上げる。
先日は山に登ったと聞いた。今ごろは北極か南極に行っているのかもしれない。
ボクから引き継いだ記憶を呼び出す。
バイクと他愛もないことを話しながら、作業をするボク。
「つぎのやすみは、どうしよう」
「本でも読んだらいかがです?」
「おすすめ、ある?」
「そうですね。『ねないこだれだ』なんてどうです?」
「それ、えほんでしょ? ボクはこどもじゃないよ」
「ふふふ。休みには街へ行って、面白い本を探しましょうよ」
こんなやり取りでも、一人で作業している時より充実していたようだ。
お店でウナイの歌を聞きながら、鼻歌を口ずさむボク。
「お兄ちゃんも歌おうよ」
「ボクは、きいているだけでいいんだ」
「お兄ちゃんって、歌下手なの?」
「ん……まあ、そうだね」
「一緒に歌えば大丈夫だよ。ねっ」
引き継いだ記憶に感情は残っていない。でも、この記憶が重要だと判断されたから、僕の記憶に残っている。
やっぱり、誰かと話ができると良いな。
僕も話し相手が欲しい。
「でも、やることをやらなきゃね」
僕は頭を振って考えをリセットすると、ワームの巣であるコンポストへと向けてボードを飛ばす。
道中で何個か泉を見つける。
数日ほど凪いでいたから、砂に埋まることなく出てきたのだろう。
全ての青い泉を中和できたら、僕の仕事は終わるだろうか。
広大なプラスチックの砂漠がなくなったら、僕の仕事は終わりになるのだろうか。
とにかく、ボクみたいに僕も三千年頑張ろう。そして次の僕につなげていくんだ。
僕は昼間の星空を見上げる。
リゲルとベテルギウスが地平線に沈もうとしている。昔は冬の夜空を彩った星々。太陽のなくなった今は、夏の昼の時間に輝いている。
沈みゆく星々を背中に、いくつかの砂丘を越える。
その時、目の端に緑色を捉える。
「あれは!」
僕はボードをくるりと反転させ、シャーっと砂煙を上げながら砂丘を滑り降りる。
そこにあったのは、緑色の泉。
今までのメンテナーの作業が結実した緑だ。
緑の泉には、うっすらと氷が張り始めていた。
この泉は、顔を出して時間が立っているのだろう。
中性を取り戻した泉は、溶けていたものが析出し、沈殿していく。ただの水となれば、氷点下の大気に当てられて、凍ってしまう。
凍った泉は砂の下に隠れてもう出てこない。だから滅多に見られなかったんだ。
前にボクが緑色の泉に出会ったのも奇跡。今回、僕が緑色の泉を見つけたのも奇跡。
僕は足で薄氷をバリバリと叩き割る。
急いで、ボクに連絡しないと。
凍って砂の下に隠れてしまう前に。
太陽を再び見るという願いを実現するために、あんなに準備したボクのためにも。




