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第十四話 メロウ1

「もっとうかれたり、もっとすごいものかと思った」

「でも、やっぱり、そんなものなのかもしれない」


 自問自答をしたところで、最初から答えなど見つかるはずもない。そもそも答えを必要としていない問いに正解などあるはずかない。女を抱いた。ただ、それだけのことだ。初めての相手が経験者であったこと――それもある一定以上の経験者であったことは、きっと僕にとって幸運なことだったのだと思う。そうでなければ、僕は相手を傷つけてしまったかもしれない。わからない。そうはならなかったかもしれないが、ともかくあれでよかったのだと自分を納得させる。納得できたとしてもどこか満たされない気持ちでいる。


「あれは、愛のあるセックスだったのだろうか?」


 そうでないものに対して否定的な自分が好きだった。恋愛の延長に体を求め合う行為があり、その先に子孫を残したいという本能と理性の調和こそが人のあるべき姿だと思っていた。自分は遊びで彼女を抱いたのではない。


「他に男がいる、それも不倫している女を抱いておいて、どこに愛があるというのか?」


 いまはそうでなかったとしても、結果的にそうなればいい


「そうなれば?いったい何がどうなれば、このことは愛に昇華するというんだい?」


 昇華するとか、汚れているとか、そういうことじゃない。僕は彼女を……


「抱きたくなったから抱いた。だって好みのタイプじゃないし、彼女だってお前のことを好きだとか、愛しているとかいったことがないじゃないか」


 言葉に出していったことがすべてじゃない。今というときがすべてでもない。過去から今、そしてその先に続く道に可能性がある限りは、何も否定できない。


「なにも肯定できない」

 そうとも。それが罪深いことだというのなら、愛とは時にそういうものなのかもしれない。僕は……愛を知らない。


「知らないから求める。お前の求めているのは彼女じゃない。男と女とは何か。愛とは何かということで、彼女自身じゃない。それでも求めるのか?彼女を。彼女の体を。彼女の心を。彼女の愛を」


 僕の胸の中のざわめきは、あなたを抱いたときから始まった。あのときあなたを抱かなかったら、僕はこんなに苦しい思いをしないですんだのかもしれない。でもそれは無理だったろうと僕は思う。僕があなたにかなうわけがなかった。あなたに抗うすべを持ってはいなかったし、あなたに安らぎを与えることも、まして導くことなど出来やしなかった。あなたがどこかはかなげでいるのが怖くて、僕はあなたを抱くことでしかあなたの存在を僕の前につなぎとめておくことができなかった。


「そう、お前が抱いていたのは彼女自身じゃない。彼女のすべてじゃない。」


 僕は、あなたの何を抱いていたのだろう?


 あなたは僕に何を許したのだろう?


 でも、あのときの僕には、何もかもが、ただの胸のざわめきでしかなかった。何ひとつ感じられず、何ひとつ考えられず、なにひとつ思い至らなかった。傷つけあうなら互いに痛みを感じられる。でもあなたは傷つけあうことを許さなかった。それはあなたの覚悟にも似た――それを生き方というほかに僕には言葉が見つからない。ただ、愛ではなく、やさしさでもなく、真実ですらもなかったのだと思う。


 二度とあなたに触れることの出来ない今だからこそ、わかることがあるのかもしれない。でも、それですら僕を納得させるのに十分なほど、あなたを理解できたとは思えないでいる。


 僕がこの歌を歌うたびに、あなたは表情を変えてしまう。月日を重ねれば重ねるほどに、まるであなたも同じだけの齢を重ねたかのように。追いつくことのない螺旋の先にいるあなたは、いつまでも僕をせつない思いにさせる。常しえに続く刹那ほど、僕を苦しめるものは、他にないというのに。




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