↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
9/12

第八章 お前は、クロなのか?

 数日後。ネオリンクス社の開発室。


 出張から戻った浅見は、部長の高木の言葉に耳を疑った。

「入院!? 宮本さんがですか?」

「ヴァルカン社の担当につかまって、ずっと徹夜続きだったらしい。お前が出張で携帯がつながりにくかったのもあるかもしれんが」

 浅見は唇を噛んだ。

「あの女……宮本さんにまで……」

 高木は肩をすくめた。

「さすがに苦情を言ったがな。だが代償は痛い」

 浅見は何も言えなかった。


 ヴァルカン社の担当、城山綾乃は厳重注意を受け、担当から外された。

 おかげで、深夜の呼び出し電話は完全になくなった。

 その一方、こちらでは主戦力の宮本優奈が入院してしまった。


◇   ◇   ◇


 深夜の開発室。

 優奈の見舞いから戻った浅見は、崩れ落ちるように椅子に座り込んだ。


◇   ◇   ◇


 病院の優奈は、明るさをすっかり失い、力なく笑っていた。

「でも、おかげでゆっくり寝られているわ」

 優奈の前向きな言葉だけが救いだった。

 もちろんそれが無理をしていることぐらい、浅見にもすぐにわかった。

 

 浅見は、優奈にできるだけのことをすると言った。


 あの明るい優奈が、目に涙を浮かべながら自分にしがみついてきたのは、彼女の心が弱った証拠だったのだろう。

 浅見はそう思った。


◇   ◇   ◇


「俺もそろそろ、やばいかもしれない……」

 浅見は疲れ切った体を起こすと、優奈のことを思い出しながらノートパソコンを開いた。

「自分まで倒れたら、宮本さんの場所が無くなってしまう……」

 浅見は休暇申請の社内サイトを立ち上げた。 


 ふと窓際から鈴の音が聞こえた。

 目を向けると黒猫がいた。

 鈴の音が静まり返った空気に鮮明に響く。


 浅見は口を開いた。

「お前、クロなのか?」

「ああ。でも正確には『そうだった』と言うべきかな」

 浅見は、机の上の写真と黒猫を見比べた。

「……正直、怖くなってきたんだ。お前のことが」

「どうしてだい?」

「クロに会えたのは嬉しいんだ。たとえ幽霊でもな。でも、願いの代償が自分以外に及ぶのは耐えられない」

 クロは一瞬黙り込み、静かに言った。

「誤解してるよ。吾輩は霊ではない」


 浅見は目を見開いた。

「幽霊じゃなきゃ、どうしてこんな現実離れしたこと……願いを叶えることができるっていうんだ?」

 クロが応えた。

「吾輩は願いを叶えているんじゃないのさ。不確定なものを確定しているだけだ」


 クロが近づいてきた。

 チリン、チリン。

 鈴の音が鳴り響く。

「悠人。人間の心が揺らぐとき、吾輩は観測されるんだ」

 クロが浅見の足元に来て、浅見を見上げた。


「つまり、心が病みかけている時とか、何かに悩んでいる時さ」

 クロが続ける。

「そういう、心が量子状態になっているとき、周辺の世界の確率が揺らぐんだ。吾輩はその揺らぎに現れる。そして揺らぎを確定するんだよ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。